「信じる道」無名 sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
信じる道
特にスパイ映画はお互いの素性を隠しての腹の探り合いが多いため、観ていて混乱させられる場面が多いのだが、この映画はさらに時系列が何度も前後するので頭の中を整理するのが大変だった。
そして明らかにこの映画はあえて見せない部分を作り、時間軸を入れ替えることで、最後まで観客に本当の人間関係を分からせないようにしている。
以前大作『戦争と人間』を鑑賞した時も、第一部の日中戦争の経過がとても難解に感じたのだが、それもただ日本が中国を占領下に置くという単純な図式ではなく、中国内部での国民党と共産党の対立も複雑に絡み合って来るからであろう。
冒頭はかつての共産党の工作員であり国民党への転向を望んでいるジャンを、国民党の政治保衛部に属するフーが身辺調査する場面から始まる。
後に中国内で勝利を収めるのは共産党なのだが、この時点では反乱分子という位置づけが強い。
そして国民党に属するフーは上海に駐在する日本軍のトップ渡辺と繋がっている。
フーはジャンから共産党内部の情報を聞き出すが、同時に処刑されるはずだったジャンを助けたことで日本人の要人のリストを入手する。
フーの立場、そして彼が何を狙っているのかは、終盤になるまで明らかにされない。
そしてフーの部下であり、親友のワンと共に諜報活動を行っているイエの真意も分からない。
彼にはファンという婚約者がいるのだが、彼女は共産党員であり日本軍に対する敵意をむき出しにしている。
そして彼女は無惨にも殺されてしまうが、明らかに犯人はワンであった。
映画は1937年の上海事変から終戦後の1946年までが舞台となっているが、それこそ立ち位置によっては180度人生がひっくり返ってしまうような激動の時代だった。
戦後、日本側についていた国民党員は反逆者とみなされ、重い罪を背負うことになったはずだ。
それに対して戦中は弾圧されていた共産党員は一気に力を取り戻すことになる。
未来のことは何一つ確約されていない。
彼らはただ自分が信じる道を突き進んだだけだ。
後半になり、ようやくフーとイエの立場が明らかになっていく。
お互いに敵側の人間であることが分かったフーとイエの戦闘シーンは凄絶だった。
そしてイエにも隠された秘密があることが分かる。
全編通して凄みがあり、何が起こるか分からない緊迫感はある。
が、同じシーンを繰り返すことで、ようやく時系列が分かるようになる演出は少し雑に感じた。
説明が少ないようで、かなりあざとい演出であるとも言える。
さて、難解な映画ではあるが、人の行動の動機とは意外と単純なものでもある。
そして必ず愛という普遍的なものがそこにはある。
イエとファンの間にある愛、そしてもうひとつこの映画の中では隠れて愛し合う二人の姿が描かれる。
その描写がもう少しドラマチックならば、もっと画面に引き込まれたかなと思った。