「トニー・レオンが渋みを増した演技だけでなく、 きっちり過剰暴力的なアクションも見せてくれる一作」無名 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
トニー・レオンが渋みを増した演技だけでなく、 きっちり過剰暴力的なアクションも見せてくれる一作
トニー・レオンは香港ノワールの代名詞的な作品『インファナル・アフェア』(2002)にも出演しているので、もちろん本作のような役どころはしっかりはまってます。
一方で彼はホウ・シャオシェン監督『悲情城市』(1989)や『恋する惑星』(1994)をはじめとするウォン・カーウァイ監督作品といったアート性の強い作品にも多数出演しており、さすがに還暦も過ぎていることもあって、「今作ではアクションは若手のワン・イーポー(スパイのイエ役)に任せて、渋めの演技に徹するんだろうな…」と予想してたら、終盤に香港アクション特有の「やたら痛そうな」暴力アクションもこなしていて、驚き。
もちろんスタント俳優が担う場面もあるんだけど、「香港アクションの伝統は俺が守る!」という気迫が伝わってきて、痛さに目をそらしそうになりつつ感動していました!
むしろワン・イーポーの方は、表情を押し殺して淡々と任務を全うする役どころのため、抑え目の演技が続き、彼の身体能力を期待していたファンは後半までやきもきするかも。今回は基本的に、クールビューティーなお顔を愛でる回、ととらえた方が良いかも(終盤にすごい見せ場があるんだけど、別の意味で悲鳴が上がりそう)。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』(2016)で監督、脚本、編集を手掛けたチェン・アルの描く戦時下の上海は重厚で、時にアート作品のような構図の場面にはっとさせられます。
物語の展開過程で謎めいた場面が挿入され、のちにその場面の意味を答え合わせするという、クリストファー・ノーラン監督ばりの時系列の組み換えを施しているため、順を追って観ていくしかない初回鑑賞ではなかなか場面の意味が理解できず、ちょっと戸惑うかも。
物語を追うのは二回目以降にして、初回はトニー・レオンとワン・イーポーら、俳優陣の演技、表情、そして美しいショットを堪能することに集中するのも良さそう。