「スパイも人の子、緊張感の背景で描かれるメロドラマに刮目せよ」無名 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
スパイも人の子、緊張感の背景で描かれるメロドラマに刮目せよ
2024.5.9 字幕 アップリンク京都
2023年の中国映画(131分、G)
日中戦争後〜太平洋戦争前後の中国にて暗躍したスパイを描いたノワール映画
監督&脚本はチェン・アル
原題は『无名』で「名もなき者」、英題は『Hidden Blade』で「隠された刃」という意味
映画は、あるカフェにて婦人が何者からかコーヒーをご馳走になるシーンが描かれて始める
その後、汪兆銘政権下の政治保衛部のイェ(ワン・イーボー)とワン(エリック・ワン)が食堂でリブを食べている映像が流れ、電話のベルが鳴り響き顔色を変える日本軍将校の渡辺(森博之)、何かを待ち苛立つ政治保衛部のフー主任(トニー・レオン)の様子が描かれていく
そして物語は、イェとワンがある河川敷に転がっている日本兵の死体の様子見をしている様子へと続いていく
映画は、この一連の冒頭の映像が「時系列が逆」になっていて、「1938年の広州陥落」のフーが描かれるところから順列へと変わっていく流れになっている
フーは陥落を生き残り、その3年後には政治保衛部の主任になっていて、彼の部下としてイェとワンがいる
彼らは関東軍の将校・渡辺と通じていて、政治保衛部の部長タン(ダ・ポン)も加わった密室会議が描かれる
フーはタン部長から「中国共産党から離脱したジャン(ジャン・シュイン)の身辺調査」を任されていて、彼はなぜか妻チェン(ジョウ・シェン)の銃を持っていた
また、イェには婚約者ファン(チャン・ジンイー)がいたが、彼女はダンサーとして潜入しているスパイで、彼女に執着を持つのがワンという関係性になっている
舞台は戦争時だが、描かれているのはメロドラマのような感じになっていて、時代性を含んで緊張感の漂う内容になっていた
冒頭の逆列シークエンスの意図が徐々に判明し、それぞれの関係性が炙り出されていくのだが、複雑に見えてもわかりにくいことはない
画面いっぱいに年代や場所が登場するのだが、前の方の席だと何が書いてあるのかを認識するのに時間がかかってしまう
エンドロールには演者がたくさん列記されるのだが、役名が書かれていないので、上海の親子と日本兵以外を判別するのは不可能に近い
おそらく登場順になっていると思うが、ググっても画像が出てこない演者ばかりなので、調べるのは無理ではないかと思った
一応は史実ベースになっているものの、ドラマはフィクションで、最終的には女絡みの寸劇になっているので、そこをどう評価するかだろうか
女性陣がとにかく美しいのだが、何のためにそこにいるのかなどわからない部分が多く、見えそうで見えない関係性もある
パンフレットに載っている相関図以上に複雑になっていて、A4用紙でまとまるのかは謎のように思えた
いずれにせよ、この時代の満州の動きは知っておかないと意味不明で、汪兆銘と蒋介石などの政治方針、政権の移り変わりによって何が起きているかなどは、最低限の素養のように思える
このあたりは、学校の勉強だけでは足りない部分がある(中国側の教育も絡んでくる)ので、そのあたりを感覚的に掴めないと厳しいかもしれない
とは言え、基本は女をめぐるいざこざみたいなところで各人の行動があるので、その視点で見るならばOKなのかな、と感じた