「楽曲の成り立ちを映像化したら、コミカルな犯罪映画になってしまった」RHEINGOLD ラインゴールド Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
楽曲の成り立ちを映像化したら、コミカルな犯罪映画になってしまった
2024.4.2 字幕 アップリンク京都
2022年のドイツ&オランダ&モロッコ&メキシコ合作の映画(140分、PG12)
実在のラッパーXATARの半生を描いた自伝映画
監督&脚本はファティ・アキン
物語は、1979年のイラン時代から2010年のシリア時代までを切り取り、2010年にシリアの刑務所に収監された顛末と、そこで完成させたアルバム「Nr.415」の制作過程を描いていく
1979年、イスラム革命の余波を受けたジワ(幼少期:Baselius Goze、少年時代:Ilyes Moutaoukkil、成人期:エミリオ・サクヤラ)の父エグバル(カルド・ラザーティ)と母ラサル(モナ・ピルサダ)は、命からがらコンサート会場から逃げ出した
その後、中東を彷徨う母は、戦場でジワを出産し、育てることになった
ある日、イランの国境警備隊にスパイ容疑で拘束された三人は、父が音楽家ということで大使館に助けられた
ジワたちはドイツに渡り、父は仕事を再会し、彼も裕福な出の少年ミラン(Latif Hussein Elias Hussein、成人期:アルマン・カシャニ)と出会い、音楽教育を受けるようになっていた
だが、学校の悪友サミー(Rahmen Beljuli、成人期:フセイン・トップ)のCDを預かったことをきっかけに悪い方向へと向かい、母を落胆させる日々が続いていた
映画は、ほぼクライム映画の様相を呈し、過去のやらかしがこれでもかと暴露されていく流れになっている
ミランと再会したジワはそこであるクラブの用心棒をすることになったが、そこで行われていたラップライブに魅了され、音楽レーベルを立ち上げようと思い始める
そのための資金作りとして、ミランの知人のマフィア・イェロ(Ugur Yucel)のお仕事を手伝うことになるのだが、そこで「やらかし」をしてしまい、それを挽回しようと無茶なことを始めてしまうのである
音楽のルーツとか、苦しい時に響く父の言葉などがあって、彼を形作るものがよく見えてくる
その一方で、無法地帯で生きてきた人々の苦悩とか、生きるための術というものは、常識の範囲ではないものばかりだった
そう言ったものがトラックメイカー・マエストロ(デニス・モシット)との出会いによって開花し、しかもサミーたちがコーラスを重ねていくくだりはとても面白かった
インディーズでCDを出してバカ売れしたという感じで、劇中で登場するエヴァ(Schwesta Ewa)をプロデュースしたりと、楽曲制作以外の分野でも才覚を発揮していくのはすごいことだと思う
父親がドイツの楽団の奏者と浮気して出ていくなどの顛末もさらっと描かれていて、環境が違えば、上流階級で過ごし、ラップとは無縁の人生だったかと思うと、人生とはわからないものだなあと思ってしまった
映画のタイトルでもある「RHEINGOLD」は、リヒャルト・ワーグナーの楽劇『ニーベルングの悲劇』の「序夜」にあたる「Das Rheingold」のことで、映画のラストでは楽劇に登場する「三人のライン川の乙女」が描かれていた
楽劇は、ライン川の川底にいる乙女の元に小人のアルベリヒが登場するという導入になっていて、ラインの乙女たちが守る黄金というものが出てくる
その黄金は魔法の指輪に変えることができるが、それには条件がある、という内容だった
その条件は「最初に愛を放棄すること」であり、それは執着を手放すという意味合いになるように思える
ジワが何を放棄したのかはわからないが、父親が伝えたかったのは、先に奉仕せよというようなことだったのだろう
それを息子に伝える時にワーグナーを引用するのが父親らしいが、父自身が愛の何たるかをわからぬまま去っていくというのも物悲しさがあるように思えた
いずれにせよ、彼らが盗むことになった黄金は見つかっておらず、最後には娘(Jesse Goldau)におとぎ話として聞かせることになっていた
そこでは、ライン川の底に沈んでいる黄金が描かれ、ラインの乙女がその周りを回っている様子が映し出されていた
この黄金は「愛を手放せば世界を支配する指輪に変わる」というものなので、おそらくは「ジワにとっての指輪」に変わっているのだろう
それが何かはわからないが、おそらくは妻シリン(ソゴール・ファガーニ)へ贈った結婚指輪にでもなったのかな、と思った