「なぜ5人の兄弟のうち4人が亡くなったのか」アイアンクロー kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)
なぜ5人の兄弟のうち4人が亡くなったのか
タイトルのアイアンクローは巨大な手で相手の頭を鷲掴みにしてギブアップを狙うプロレスの必殺技の名前だ。
この技を生み出したのが日本でも活躍したレスラー、フリッツ・フォン・エリック。
レスラーの名前は覚えていないが、子供の頃のプロレスごっこで相手の頭を掴みアイアンクロー、と言っていたのは覚えているので当時流行ったのだろう。
この映画はそのフリッツ・フォン・エリック一家の実話を映画化したものだ。
一家の話は全く知らなかったが、5人の息子たちがいて、4人がプロレスラー。
しかも4人が病気や自殺で亡くなっているというのだから驚きだ。
唯一の存命した次男のケビン(ザック・エフロン)を主役に一家の壮絶な運命を描いているのがこの映画だ。
A24製作で実話の伝記というのは珍しいが、ストレートな家族愛の物語でも、プロレスのスポコン物でもないジャンルの枠を超えているところがA24らしい。
ただ、プロレスシーンのほぼスタントマンなしでザック・エフロンがむきむきに鍛え上げた肉体でぶつかり合う迫力の映像はエンタメとしてそれだけで見る価値があるし、
ケビンが次々家族を失うことの苦しみとそれでも新しい自分の家族を育んでいこうとする慈愛の心は見るものの心を打つ。
題材がマニアックなプロレスではなくボクシングや野球などだったらもっと大ヒットしたのではないだろうか。それくらい完成度は高い。
まあ、この題材がA24の真骨頂でもあるのだが・・
主題が家族愛であることは紛れもないことだが、視点を変えて興味深いのは、なぜ、5人の兄弟で4人が亡くなってしまったのかだ。
この一家のことは「呪われた一家」などというフレーズで言われることがあるというが、どちらかというとそのほうがA24らしい「悪霊」の呪いではもちろん無い。
この映画を見て思った一つの原因は父親の変質的なほどのプロレスへの執着だ。
時代背景もあるだろうがある意味子供たちを支配している。
父親への返事は字幕では「はい」だがセリフではYES SIRと言っている。
今の時代父親の夢を子供へ託すのはありえないが、プロレスの道へ進むのは一家の掟のように見える。
子供達がプロレスの道に進まなければ死ぬことはなかったのではないか。
たらればの話だから意味はないのだが。
終盤のケビンと家族の描き方が救い。
生き残ったケビンの一家は呪われることもなく、大家族だそうだ。