「父親の呪い」アイアンクロー かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
父親の呪い
A24はこれだから好きだ。
「呪われた一家」なのは、父親がかけた呪いにある
絶対的家長の父、父の補佐官のような母。俺が掟、の父の「洗脳」の下、プロレス道を邁進すること第一の息子たちの悲劇は起きるべくして起きたのだと思う。
息子たちが窮地に陥っても知らん顔、「兄弟で解決しなさい」という両親には、息子たちは命令に懸命に従う配下でしかないよう。
母が信仰深いのは、父の洗脳の下で息子たちを人として思いやることを禁じられた代償かもしれないと思った
兄弟たちが助けを求めるのは両親ではなく、長兄のケビン。ケビンもそれを喜んでいるよう。恋人時代のパムに「長男病(次男病)」と指摘されたように、兄としての愛情と責任感に溢れて、冷めた両親の代わりに、弟たちの精神的な両親だ。
次男だが、事実上長男のケビンは、プロレスにおいては弟たちの後塵を拝する立場。
よく言われるのだが、スポーツ界において長兄・長姉は割を食うらしい
自分第一ではなく無意識に下の子たちに配慮して、自分を抑えて妹・弟に譲ることが多くなってしまうからとか。その点、弟・妹は余念なく自分第一で競技に没頭できるから、勝負の世界ではいい成績を残せるようだ
この兄弟も、家業のプロレスにおいては家族愛が人一倍強い兄ちゃんが実力で弟たちに及ばず、プロレス至上主義の父から冷酷に格下扱いされている。しかも、その辛さを表に出せずにひとりで耐える、弟たちの兄ちゃんだから。
(このあたりのザック・エフロンの演技、特に表情が絶妙。)
プロレス界で華となった弟たちが、実力ある順に不幸な死を遂げていくのは多分、偶然ではない。三男デビッドは体調が悪かったのに勝負を優先してあのようなことになり、四男ケリーはプレッシャーに耐えきれずほぼ自滅してしまった。ふたりともプロレスが人生のほぼ100%を締めていたからだろう。
余念ゆえに競技で強くなりきれないケビンは、その余念が故に、視野が広がり思い詰めずに済み、ヒトらしい人生が送れたのではないか。
自然に周囲に配慮する気遣いと優しさは、妻となる女性を惹きつけたし、息子たちもパパが大好き、「それなら僕たちがパパの兄弟になるよ」といういい子たち恵まれた。幼い息子にこんな事言われたら、泣きますね。
最終的には父と決別して自分なりの道を歩めたのも、他の道を選択できる心の余地があったからでは
一家では異端児の五男・マイクの悲劇など、明らかに一家の呪いだ。
この家に生まれなかったら違う道に進んだに違いないから。
観に行った劇場では、30人くらいの観客のうち、女性は私ともう一人だけであとはおじさんばかりだった、と家のダンナに言ったら、そらそうだろう、フリッツ・フォン・エリックだからな、というので、え、有名なの? と聞いたら、当たり前だ!と。
昭和の(悪役)外人レスラーで、俺くらいのおっさんなら知らない人はいない、と鼻息荒く
フリッツ・フォン・エリックのアイアン・クローと言えば、デストロイヤーにおける四の字固め、ジャイアント馬場における16文キック、スタン・ハンセンにおけるウエスタン・ラリアート、アントニオ猪木におけるコブラツイスト(以下省略)と同様の必殺技だ!とドヤ顔して恐れ入った。とーちゃんは日本でも有名人だったのか。私はデストロイヤーはバラエティーで、あといつもおでこから血を流している人(誰?)が記憶にあるかなあ。
父親とでかい息子たちの朝食シーンに笑った。パンツ一丁で現れママに「ズボンくらい履け」と文句を言われ、食べる量が恐ろしい。山のようなカリカリベーコン(美味しそう)にバケツに入りのマカロニ、コストコの袋入りを一度で消費してそうなパンの量、この一家の食費ってどれくらい掛かるんだろうかと思った。
エンドタイトルの後に出てきた一家の写真が面白い。
勢揃いのなか、小さい男の子が空高く放り投げられている! 半端ない高さなのに彼、怖がるどころか喜んでんの。こういう一家なんだな、というのが一目瞭然で、これも笑ってしまった。
映画では割愛されていたが本当は六男までいて、彼も悲劇的なことになってしまったとか。
それでも、兄弟の息子娘がレスラーとなり、この写真のように、一家は家業のプロレスを続けているのだ。
プロレスの試合前の相手を罵倒し倒すパフォーマンスが「プロレス」の空気感を出し、肉弾ぶつかりあい汗と血しぶき飛び散る試合のシーンの迫力が凄い。
ホルト・マッキャラニーが実物のフリッツ・フォン・エリックにそっくり。
私の知っているレスラーは、フォン・エリックファミリーの対戦相手たちのようにちょっと筋肉たるんだイメージだったので、兄弟の肉体に驚き。
特にザック・エフロンの肉体は驚異的。
リアル超人ハルクみたいで、CGかと思ったが鍛えて作ったカラダだそうで、惚れ惚れしました。
luna33さん
ありがとうございます!そのように言っていただき、嬉しいです!!
私は少し仕事を休むことになり(映画は観に行けます)大好きな映画のことを考える時間がたっぷりできました。復帰までの間、映画を見てレビューを書き、みなさんのレビューを楽しませていただこうと思っています! どうぞよろしくお願いいたします。
かばこさん
共感ありがとうございました。
映画を語れる人が周囲にあまり居なくてずっと悶々としていたのですが、ふとレビューを書いてみようと思い立ち最近書き始めました。ただ実際書いてみると表現って本当に難しいなと感じます。
それにしてもかばこさんのレビュー、本当にお見事としか言いようがないです。
今後も多いに参考にさせて下さい。
三輪さん
ありがとうございます、そのように言ってもらって、ワタシも嬉しいです!
こちらからもフォローさせていただきましたので、引き続きよろしくお願いいたします。
ゆ~きちさん
技掛けてたんですね、そういえば男子が教室で四の字固めとか掛けてたのを見た気がします。朝礼で校長先生に「みなさんはプロレスラーではありません。四の字固めは掛けないように、痛いです」とか言われてませんでした? 笑
トミーさん
勇気あるコメント、ありがとうございます。
そうでしたか、そんな気はしました。
ケリーが悩んでいたのは、自分が見限られる危機感と言うか恐怖感の方だったんですね
sow_miyaさん
良いことを教えていただきました、ありがとうございます!
格闘家一家の話はノンフィクションに近いものがムネアツな気がします。あと、インド映画の「ダンガル」これも良かったです。
バッシング覚悟で申し上げますが、ガチはほぼ有りません。実力で言えば、オリンピアンに勝てる訳がありません、相撲は水槽の中でやらせれば最強かもしれませんが。タイトルマッチは誰が勝てば盛り上がるか、その後どれだけお客を呼べるか、綿密に検討されています。ダビッドは誰もが認めていたようですが病気が・・ケリーは認めてもらえなかったという事でしょう。
かばこさん、共感ありがとうございました。
プロレスを家業とした一家の話として、自分もフォローさんにおすすめされて観たのですが、「ファイティング・ファミリー」という作品が対極として、ムチャクチャいいです。
私は、アマプラの配信購入で2,500円支払いましたが、大満足でした。DVDレンタルとかならもう少し手軽に手に入るかもしれません。昭和のプロレスファンのご主人さんも、胸熱だと思います。
機会があれば、是非ごらんください。
トミーさん
脚本まではなくてもある程度、ということなのでしょうか
「勝敗は決まっていても」決まってるんですか
タイトルマッチなどはガチで、それ以外はショーとかですかね、暗黙の了解だったりするのでしょうか。
ジャイアント馬場の晩年の試合などは明らかに「決まってる」試合だったと思います。ちら見でしかないですが、それでもわかるようなあからさまな試合だったです
脚本と言う程精密なものは無いようですが、一部上場するからには内幕も開示する必要があるようです。事前に勝敗は決まっていても、アクシデントや悪意、かっとなって・・から思わぬ惨事がおこるトリッキーな商売ですね。
琥珀糖さん
絵を描いている母親を出してきたのは素晴らしいと思いました。
夫の支配下にある彼女ができた唯一の感情の発散(夫への無言の反抗かも)だったと思います。夫は、これで妻がすべて自分に同化していたわけじゃないことを知ったと思う。
コメントそして共感ありがとうございます。
同感するところ多々ありますし、描写が精密なので、
もう一度映画を観ているようでした。
お母さんは宗教に丸投げしてるように感じたのは、
夫が強すぎて、
〉思いやることを禁じられたため・・・
そうですよね、口答えしたら家庭円満は無理ですものね。
ラストで絵を描いてる姿が、彼女なりの悲しみへの向き合い方だったのでしょうね。
トミーさん
めっちゃ詳しいですね~!
勝負の世界はメンタル面でも過酷だと思います。人生賭けているほど深刻だと思う
この映画見るまでは失礼ながらプロレスはショーみたいなもので脚本あるのでは、と思ってました。
Mr.C.B.2さん、ニコラスさん
ご教示ありがとうございます。
「額から血を流している人」はアブドラ・ザ・ブッチャーのようです
スキンヘッドででっかい肉の塊みたいな記憶があります。おでこ傷だらけ(縦に波のような曲線があった)は、そこやられてたことが多かったからなんですね。怖かったですよ、ブッチャー。
共感ありがとうございます。
プロレス史的に言えば、ダビッド追悼興行で世界王者になれたケリーはすぐに転落(日本で! それも元サヤ)、自分の王者としてのキャパの限界に悩んでいたと思われます。ストレス発散の趣味バイクで事故をおこしてしまい、つくづくメンタル的に難しい商売だと思います。