劇場公開日 2024年4月5日

「父の呪縛」アイアンクロー ありのさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5父の呪縛

2024年4月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

 ”呪われた一家”とも言われるフォン・エリック家であるが、その波乱に満ちた運命は実に悲劇的だ。これが実話ベースというから、何ともやりきれない思いにさせられる。自分はそこまで迷信を信じる方ではないが、流石にこれだけ不幸が重なるとお祓いでもしてもらった方が良いのではないか…と思うほどだった。

 ケビンたちの不幸は、厳格な父フリッツの束縛から逃れられなかったことに起因しているように思う。何をするにしても彼らは父の言いなりで、反抗することすらできない。
 例えば、五男のマイクは兄たちのように決して体格が恵まれているわけではない。彼は大好きな音楽の道を進もうとした。しかし、厳格な父はそれを許さず兄たちと同じようにレスラーにさせた。その結果、悲劇的な末路を辿ってしまう。

 プロレスの世界では”強さ”こそが正義である。フリッツは息子たちに期待をかけて厳しく特訓したが、これが完全に裏目に出てしまった。結局、彼らの人生を奪ってしまったのである。

 もし、ケビンたちが勇気を出して自分の”弱さ”を正直に曝け出すことが出来ていれば…。あるいは、このような不幸は起こらなかったのかもしれない。

 監督、脚本はシェーン・ダーキン。長編デビュー作「マーサ、あるいはマーシー・メイ」を鑑賞したことがあるが、シュールなスリラー・テイストが中々面白かったと記憶している。この路線で行くのかと思いきや、今回は実話ベースの人間ドラマということで、その時のような技巧的な演出を封印し、実に正攻法にまとめ上げられている。唯一、母親が息子を幻視するシーンにシュールさが感じられたが、基本的には奇をてらうことなく大変観やすく作られている。

 ただ、ヘビーな物語のわりに、映画自体の鑑賞感はもうひと声欲しいという気もした。ケビンの葛藤に迫るような描写が余りなかったせいかもしれない。兄弟間の絆や父に対する愛憎など、プロットの肝は押さえられているものの、いかんせん語り口が淡泊なのが惜しい。ケビンの内面を深堀していけば、更に見応えのある作品になっていたかもしれない。

 キャストではケビンを演じたザック・エフロンの熱演が印象に残った。筋骨隆々にバンプアップした肉体改造はレスラーとしての説得力も十分。本作にかける思いが映像から伝わってきた。

ありの