「家族という欺瞞」アイアンクロー ゆるさんの映画レビュー(感想・評価)
家族という欺瞞
ケビン目線でストーリーは語られ、一族の紆余曲折を経て次男が父の呪縛から解放されて自立するまでを軸にした本作。
事実を元にしたファミリーストーリーなのかな?と思いきや…
随所に不穏さが散りばめられていきます。
例えば、マイクに対して父が厳しすぎるると、ケビンが母に進言を求めた時…
『兄弟のことは兄弟で解決して』
アバンの車内での一件、詳しくは語られない長男の死を経て、母親はとうに夫婦を諦めているのでしょう。
もっと言えば、男性的な象徴に囲まれた環境下で追いやられ、家族や人生を諦めてきたのかも知れません。
この家族の中では父が絶対であり、そこには絶対的な敬意と愛を示さなければならない。
その後も小さなエピソードを経て、この一家が愛情という幕を被った歪な集合体であることは浮き彫りになります。
そして、兄弟に深い愛情を示し続けるケビンもまた、歪です。
三男の体調不良を知りながら、病院に連れて行かずプロレスを優先させたり
四男がアルコールを摂取していると知りながら、バイクで夜道を走ることを止めなかったり
障害の残る末っ子を記者会見に引きずりだして、再起を誓わせたり…
つまり、彼もまた父の顔色しか見ていません。
自分が父親になっても常に人のせいにして、危うく家庭崩壊に追いやられるか…と思われた終盤からの、
父に対する決別と兄弟を失ったやり切れなさ。
一見すると幸せな家庭を手にした今のケビンは果たして幸せなのか…
見終わった後の切ない余韻が、改めて幸せとは何かを問いかける作品です。
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