劇場公開日 2024年4月5日

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「アイアンクロー・トゥ・ユー!」アイアンクロー とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0アイアンクロー・トゥ・ユー!

2024年4月6日
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アイアン・クローくらってきた。家父長制と兄弟愛、そして"男は泣き顔を見せるべきではない"といったステレオタイプなマッチョイズムが支配的な昔ながらの歪んだ男性像について。フォン・エリック家父と子供4人メイン5人の素晴らしい演技を中心としたアンサンブルキャスト。死から逃れられない"呪われた一族"と世界一になることを宿命付けられた息子たち。"次男症候群"のザック・エフロン!苦しむジェレミー・アレン・ホワイト!吠えるハリス・ディキンソン!そして、問題の(?)父親役で威厳・威圧感ありまくりホルト・マッキャラニー!! 呪いの正体とそれを解く鍵は?

伏線と言っていいか分からないけど、その後の展開を予感させる作りが非常に効果的。ファーストシーン、父親フリッツの現役時代の試合シーンで、非情なほど相手選手を幾度となく蹴る彼の頭とリングがフェードして重なることで、彼の頭の中にはプロレスのことしかないことが強調される象徴ショットからのメインタイトル。息子二人と戯れるシーンもラストに反復される作り。
そして、色のついた"現代パート"最初の、ケビンの目覚めカットで、ザック・エフロンの身体の凄まじさに、予告など見ていても事前に見ていても改めて度肝を抜かれる。それくらい途轍もない仕上がりっぷりだ。予告では、支配的父親から逃れるように使われていたケリーのバイクシーンも、実際劇中の流れで見ると別にそういうわけでもなかった。ただ、それでもやはり作品全体を見たときに、そうした意味合いはあるだろう。息子たち3対3試合後、父親がマイクパフォーマンスするシーンで望遠レンズにより後ろにいる観客との距離を縮めることで、一枚絵として一体感があった。
そうした"マッチョイズム"から切り離された、適応できずにいる音楽好きマイクがいたことで、個人的に共感性が増していた。彼がレコードをかけるシーンで、全てクローズアップで撮ることで、彼にとってそれがいかに大事かを物語り、その後の顔のアップで左目にピントが合っておりそれは三分割法のスイートスポットなわけだけど、その後の彼に待ち受ける運命の始まりとなるような怪我を考えると、それもまた示唆的か。
コインの裏表は紙一重だけど、賽は投げられたら後には引き返せない。"絶対にそういうことになるよな"と見ている誰もがきっと感じる、拳銃スミス&ウェッソン。目を見張るショットによる鬼の特訓パートからの最後の試合、父親と同じことになりかねない主人公ケビンの暴走。からの家族写真で、物語が一周回って終わりが近いことを観客に意識させる。しかも、それは冒頭と違い、その大部分がいなくなってしまったこと、その不在を際立たせる。
父親がもっと子どもたちのことを気にかけていたらこうはならなかったかも、防げたかもしれない結果。家族(の状態)への無関心、一家の大黒柱として自分は父のようにはならない、そう自ら決断することが大事。死者へも敬意を払い、その描写・シーンに思わず泣いてしまった。涙が流れた。悲劇的な実話から、想像を超える感動的なラストへと…。"死"を描くことで"生"を際立たせ、未来につなげるような素晴らしい作品だ。魂に刻まれる傑作。

P.S. めちゃくちゃ見たかった作品!思った以上にガツンと来て、目頭も胸も熱くなった…。ザック・エフロンが188cmに見えるかはさておき、余談ながら作中しばらく時が経って前髪伸びてからは、ただのムキムキバキバキなザック・エフロンに見えなくもない?
どちらも日本公開を去年から待ちかねていた作品だけど、本作と『パスト・ライブス再会』が同日公開なの、映画ファンとしては途轍もない並びラインナップだ。見る人の絶対数として『オッペンハイマー』のほうがマスト必修科目感はあるが。

I'm sorry if I hurt you.
I'm going to a better place.

とぽとぽ