「弟に幸あれと願わずにいられないけど、年上じゃないとダメなんだろうなあと思った」風の奏の君へ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
弟に幸あれと願わずにいられないけど、年上じゃないとダメなんだろうなあと思った
2024.6.7 イオンシネマ京都桂川
2024年の日本映画(98分、G)
原案はあさのあつこの小説『透き通った風が吹いて(文春文庫)』
元恋人のもとを訪れるピアニストを描いた恋愛映画
監督&脚本は大谷健三郎
物語の舞台は、岡山県美作市
ピアニストの青江里香(松下奈緒)は、東京芸大時代の恋人・真中淳也(山村隆太)に会うために、東京からその地を訪れていた
だが、淳也は彼女を追い返してしまう
それから2年が経ち、里香はツアーの一環として、もう一度彼の元を訪れることになった
高校時代に街角で彼女を見かけた淳也の弟・渓哉(杉野遥亮)は、彼女に心を奪われるものの、兄と恋人関係だったことは知っていた
2年前に完全に切れたことも知っていて、コンサートツアーでの再会はサプライズで、気兼ねなく接することができると思っていた
だが、里香はいまだに兄のことを想っていて、それでも兄はそっけなく接するだけで、渓哉はその態度に苛立ちを見せていた
物語は、コンサート終わりに舞台で倒れた里香が病院に運ばれ、そこで淳也の友人の藤井(たける)の診察を受けるところから動き出す
過労と思われ、療養のために数日を過ごすことになったのだが、そこで渓哉は自宅の使っていない母屋を使うように進言する
淳也は疎ましく思うものの、それを拒むことはできず、里香はその部屋を借りて、新曲を作ることになった
渓哉は彼女を色んなところに案内し、彼女のインスピレーションの助けをしていくのだが、彼女が完成させた譜面は、淳也のために作ったものであることで絶望を感じてしまう
さらに、茶香服の決勝で戦うことになったのだが、里香はずっと淳也のことを気にかけていて、それも渓哉の心を傷つけていくのである
映画は、完成した楽曲をリサイタルにて演奏する様子が描かれ、そこに来るべき淳也が来ないというお約束の展開を迎えていく
痺れを切らせた渓哉が兄を強引に連れてくるのだが、そこでようやく兄の本音というものがわかる
だが、彼は「クズだ、逃げ続けている」とだけ言い、具体的なことは何も言えない
ここからは想像の世界になるが、おそらくは里香の方が先に成功し、自分自身が何も残せないことへの焦りのようなものがあったのだと思う
同じ芸術家として何も残せない淳也は、恋人の成功を羨ましく思うよりも、自分は彼女に相応しくないと考えたように思う
だが、そんな心の内を打ち明けることはできず、それゆえに「逃げる」という選択をする以外になかった
彼女が追いかけてきても受け入れることができないのだが、里香の想いの方が強すぎて、人生の覚悟ができている者は周囲を巻き込んでしまう
渓哉はその想いに感化され、彼女のためにすべてを捧げるつもりで、最期の時間を与えようとしていた
いずれにせよ、最後までクズな兄で終わるところも彼らしく、最後をどのように過ごしたのかは描かれない
おそらくはリサイタルの直後に限界が来て亡くなったと考えられるが、最後の瞬間は美作で過ごしたのだろうか
そうだとしたら、淳也は全力で彼女を支えたと思うので、それらのシーンをエンドロールで流しても良かったのかもしれない
蛇足っぽい感じはするが、最後に幸せに過ごしたことが伝われば、なお感動的に締めくくれたように思えた