「あなたが見せているのは月の表側…? 裏側…?」六人の嘘つきな大学生 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
あなたが見せているのは月の表側…? 裏側…?
アクション『シティーハンター』、サスペンス『ストロベリーナイト』『累/かさね』、ラブコメ『脳内ポイズンベリー』、コメディ『守護天使』、青春ドラマ『シムソンズ』などなど。
佐藤祐市監督も多岐に渡るジャンルを手掛けているが、やはり最も印象あるのは出世作となった『キサラギ』のようなワン・シチュエーション/どんでん返し。『名も無き世界のエンドロール』もその類いか。
本作はまさしく同系統。就活で集った六人の大学生の嘘と秘密と真実が明かされていく…。
これは期待。確かに面白く見れた。面白く見れたんだけど…、何と言うか、もうちょっとこう…。
一流エンタメ企業“スピラリンクス”の新卒採用で、最終選考に残った6人の大学生。
九賀。フェアをモットーに、冷静・的確でリーダーシップを執る。
矢代。英中韓の語学力と人脈で、世界に目を向ける。
袴田。スポーツマンならではの快活さで、ムードメーカー。
森久保。人見知りな性格だが、分析力に長ける。
波多野。穏やかで真っ直ぐな性格。
嶌。5人と比べ何の取り柄も無いと言うが、鋭い洞察力を持つ。
会社からの課題。6人でチームとなり、一ヶ月後のグループディスカッションに臨む。
自己紹介兼ねての集まりを皮切りに、定期的に皆で会うようになり、様々なアイデアを出す。時には和やかにフレンドリーだったり、時には白熱し激論したり、仲が深まっていく。
6人全員で内定を獲得する為に。
これからの社会人生活。大海に飛び込む訳だが、心細い。
そんな時、絆と志を共にした仲間がいたら…。生涯の友に巡り合った。
…その筈だった。
会社から突然の変更通知。諸事情により、内定確定は一人だけ。しかも誰が相応しいかその一人を、6人で話し合って決めて欲しいとの事だった…。
せっかく出会って仲間となり、これから一緒に頑張って行こう!…と絆を深めたのに、それを崩壊させる突然の変更。作為か、本当に急遽か…?
酷な選考をさせる企業批判も込められているのだろう。
疑わしさを感じずにいられないが、皆思ってる事は同じ。
せっかく出会った仲間だが、自分が絶対に内定を貰いたい…。
仲間から一転、ライバルに…。
スピラの一室に集められ、一人を決める日。
選出方法は…?
九賀が提案。15分置きに投票。その間話し合い、最終的に最も票を多く集めた者が内定の権利を得る。
皆、意義ナシ。早速最初の投票が始められたのだが…、
この投票システム、利に適ってるようで、果たして平等正当性はあるのか…?
リーダーシップある九賀やムードメーカーの袴田には票が入り易いが、案の定、ツンとした矢代や人見知りの森久保はゼロ票。無記名投票ではなく、誰が誰に投票するかボード上で。遺恨やぎくしゃくも募る…。
そこに、思わぬ爆弾投下。
部屋の片隅に一通の封筒が。中には6人各々の名が記された封書が。
怪訝しながらも、まずは袴田が自分の封書を開く。中にあったのは…
“袴田は人殺し”。怪異な告発文。
学生時代、野球部でいじめで後輩を自殺に追い込み…。
激しく狼狽する袴田。デマか、真実か…?
写真もある。中には嫌悪する者も。
その時、2回目の投票。結果は目に見えている。
袴田にはゼロ票。よほどの事でもない限り、袴田が逆転する事は難しいだろう。
封書には各々の悪行が書かれているのだろう。それらを暴露し、印象変動する投票を続けるのか…?
そもそも、一体誰がこんなものを…?
スピラか? 試されているのか…?
だとしたら悪質過ぎる。スピラの手中に踊らされてはいけない。
封書を開くのは止めよう、純粋に話し合おうが大半の意見。
しかし、これも不平等だ。開けてしまった袴田の印象はずっと悪いまま。圧倒的劣勢。
九賀が言う“フェア”で進めるなら、皆のも開けるべき。
意見が対立する中、次の封書を開ける。
それも先に開けた封書に指示されている。次は、九賀…。
“九賀は人でなし”。交際相手を妊娠させ、中絶させ…。
次の投票では勿論、それまで最も多くの票を集めていた九賀がゼロ票…。
次は矢代。“矢代は商売女”。ファミレスでバイトは嘘で、キャバクラでバイトしている…。
次は森久保。“森久保は詐欺師”。老人をターゲットにした詐欺に加担していた…。
皆、いい奴らだと思っていた。しかし、その裏の顔は…?
ある人物が例え。月の表と裏。我々は月の表しか見えない。裏側は知らない。
本当の顔はどちら側なのか…?
冷静な九賀や洞察力が優れた嶌がある事に気付く。
暴露にも差が。九賀や袴田や森久保は犯罪レベルだが、矢代は…。キャバクラバイトが悪行と言うなら職業差別に当たる。
嶌が室内の監視カメラに気付く。それを巻き戻し、誰が一番最初に部屋に入ったか。即ち、誰が封筒を置いたか…? 収められていたのは…、森久保。
一気に森久保犯人説。森久保は否定。自分の家のポストにこの封筒が投函され、誰にも知られる事なく部屋に置けと指示されたと訴える。皆は信じない。
九賀が写真に不審な点を見つける。傷や模様。つまりこの写真は、同一人物によるもの。撮った日時も判明した。その時、アリバイの無い者が疑わしい。
各々、アリバイあり。一人だけ、アリバイが無い者が。
波多野。
普段穏やかな波多野も動揺。アリバイが無いってだけで犯人扱いなのか…? 何の予定も無い日だってある。それがたまたまその日だっただけ…。
またまた一転して、波多野に疑い。
波多野は皆の感心を集めていた。暴露や疑心暗鬼、修羅場のようなこの場で、皆の事や正当性を訴える。今一度、もう告発文を開けるのは止めよう。
投票の時間。皆の票が波多野に。フロントランナーに躍り出た。
それが窮地に。波多野の告発文の内容は…?
他と比べ比較的軽い者だったら、自作自演の可能性が…。
“波多野は犯罪者”。未成年で飲酒。
これで決まった。犯人は波多野だ…。
否定していた波多野だが…、認める。
また、最後の告発文=嶌の封書は何も書かれてないと破棄する。
皆、知っていた。嶌も。波多野は嶌に想いを寄せている…。
明かされていく罪、秘密、嘘、真実。変動する印象。
無傷が一人。最後の投票。
最終結果。最も多くの票を集めたのは…
嶌だった。
自分では何の取り柄も無いと言っていた嶌だが、物事を客観的に見、洞察力に優れ、性格も温厚で真面目。暴露されるような悪行も無い。
最も相応しい。皆の意見も一致。
しかし、思った。例えばそう仕向ける、嶌の自作自演だったら…?
どうやらその気配は無く、波多野が部屋を飛び出した事で、ディスカッションは終了。
一応スピラへの内定者も決まったのだが…、6人の絆は何とも後味悪いものに…。
しかし、これで終わりではなかった。
8年後、再び…。
8年が経ち、嶌は手腕を振るい、エリート社員として、スピラの顔となっていた。
仕事に取材に多忙な嶌に、ある日訪問客。
波多野。…彼ではなかった。波多野の妹、芳恵。
妹曰く、数ヶ月前に兄が病気で亡くなった。
遺品を整理していたら、何かの調査書類などが出てきた。
それには嶌に宛てた手紙も。“犯人、嶌さんへ”と…。
波多野は亡くなる前まで例のディスカッションの事を調べており、自分の無実を晴らそうとしていた。
真犯人も。嶌が真犯人だと言うのか…?
妹に疑われるも、嶌は否定。
奇しくもあの事に再び。波多野が残した調査品を元に、嶌も調べ始める。
そして辿り着く。あの時は見えなかった不審な点、真実、真犯人を…。
人気、実力、注目の若手のアンサンブル。
最初はちと混乱。私ゃ男なので魅力的な女優陣=浜辺美波や山下美月はすぐ覚えられたが、イケメンズは同じ顔に見える…。
見ていく内に個性はくっきりと。二転三転、スリリングでもある演技バトルを楽しませて貰った。
やはりまた、佐藤祐市監督のワン・シチュエーション劇を見たかった。手堅い職人手腕。
ベストセラー小説の映画化。原作既読者からすればはしょられている部分もあり、辻褄や納得いかない部分もあるらしいが、未読の者としてなかなか面白く見せて貰った。
…終盤までは。終盤も悪くなかったんだけど…、ちょっと腑に落ちない点や消化不良もあり。
嶌は8年ぶりに皆を集める。
九賀、矢代、袴田、森久保。
皆、エリート会社勤めだったり、企業したり。それぞれの道を歩んでいた。
あの時の事は忘れてはいないけど、とっくに昔の事。それが何を今更…。
嶌が言う。波多野くんは犯人じゃない。真犯人は別にいる。
皆がうんざりする中、嶌はある映像を見せる。あの時の室内の映像。
告発文が暴露される中、不審な動きをする者が2名。森久保と矢代。封書に告発文とは別に何か別の紙があり、それを知られぬよう破棄。問いた出すと、二人は強迫と読んだら破棄するよう指示が書いてあったと。
あの暴露写真についても新事実。あの時は気付かなかったが、全員同日時の撮影は無理。しかし一人だけ、実は離れた場所におり、アリバイを作れば可能な者が。その者は写真の不審さを訴え、あたかも誘導するように…。
九賀。
勿論否定する九賀だが、幾つかの証拠を揃えられ、白状する。
告発文は自分が作った。アリバイを作り、写真も加工し、波多野の嶌への想いも利用し…。
動機は…?
この動機が真犯人と真相の肝になる筈が、ちと…。
九賀には慕っていた一個上の先輩がいた。超優秀。その先輩もスピラ希望。
絶対受かると思っていたのに…、不合格。
これにショックを受けた九賀。スピラの人事の奴らなど、人を見る目が無い。
それを証明してやる。6人の上っ面だけをスピラ人事に見せ、裏ではこんな悪行を…。
それにスピラ人事は気付くか…? お前らに人を選ぶ資格は無い。お前らは無能だ。
この九賀の動機がどうも弱いと言うか、ピンと来ないと言うか…。
いやいや、きっとこれは第一段オチ。あっと驚く大どんでん返しが控えているに違いない…。
波多野が生前残した肉声テープ。それに収められていたのは…
最初は自身の不名誉挽回。5人に対して憎悪に似た感情も持っており、5人の裏の顔を暴露してやろうと。
途中途中の過去を知る関係者へのインタビュー。聞き出していたのは波多野だった。
しかし、そこで知ったのは…
袴田、九賀、矢代、森久保の悪行。それは誤解だった。
裏の裏。つまり、表だった。
関係者皆が弁解する。誤解なんだ、間違いなんだ、悪くないんだ。
悪行は本当は善行であった。
それらを聞く内に、波多野は改めて気付く。
やはり皆、いい奴らだったんだ。
あの時育み、感じた絆や好意は偽りの無いものだった。
生涯の友になる筈だった。
それが疑心暗鬼に振り回され、失われ…。
自分も卑屈だった。こんないい奴らを陥れようとして…。
誰も悪くない。
今なら断言出来る。皆と出会えて良かった。最高の友だった。
二転三転して、最後の最後に皆の“表の顔”と欠けがえのない友情に気付く。遅すぎたかもしれないが…。
最終的にはいい話になるが、これが一番の大オチなの…?
何だかいつぞや見た密室サスペンスなのに殺人が起こらなかった『ある閉ざされた雪の山荘で』の何とも言えぬ肩透かし感と似たものを…。
つまらなくはなかった。けど…。
ハッピーエンドに思えて最後の最後。
実は、波多野は生きていて嶌と共謀していたとか、やはり嶌が全て仕組んだ真真犯人だったとか、期待していたんだけど、それも無く、ちょっと物足りなさを感じてしまった。
切なさ滲むハッピーエンドに満足すりゃあいいのに、自分の貪欲な“裏の顔”を見てしまった。
ところで、波多野が破棄したけど、嶌の告発文の中身は何だったんだろう…? やっぱり気になる。
こんにちは
共感ありがとうございます。
聞き齧りなのですが、蔦さんの告発文の内容は、
確か、家族に障害者がいて・・・的だったと読んだと思います。
(それだとアンタッチャブルな・・・ですものね)