劇場公開日 2024年9月13日

「三谷幸喜の笑いのツボを押さえた人には大傑作」スオミの話をしよう アラ古希さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5三谷幸喜の笑いのツボを押さえた人には大傑作

2024年9月15日
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三谷幸喜監督作品9作目、前作「記憶にございません」から5年目の最新作である。三谷幸喜作品のほとんどはコメディ作品であり、劇場で笑いが起きる回数が多いほどヒットしているように思える。本作も、ミステリー仕立てでありながら本質的にコメディであり、三谷幸喜の笑いのツボを押さえている人ほど大笑いできるように作られている。つまり、見る人を選ぶ映画である。

話の骨組みに当たるのは、これまで5人の男と次々と結婚しては離婚して来たスオミという女性が行方不明になり、夫たちが協力して解決しようとするものである。それぞれの夫がスオミについて持っているイメージがまるで違っている理由は、映画の中で述べられているが、それを一瞬で演じ分けている主演の長澤まさみの多芸ぶりに驚嘆させられた。彼女の存在が大前提になっている作品と言って過言ではない。

映画というよりは優秀な舞台劇を見ているようであり、それを肯定的に取るか、否定的に取るかで評価は別れると思われる。長澤まさみをはじめ、キャストは大部分が 2022 年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の関係者で占められていて、三谷幸喜の信頼っぷりが察せられる。特に瀬戸康史と宮澤エマの演技が光っていた。この2名は「鎌倉殿」でも途中退場しない役柄で、三谷幸喜からの信頼は絶大のようである。

三谷幸喜はかねがね映画撮影において1シーンを1テイクで撮りたいと述べているが、このような超長回しは、誰かが一つでもミスしてしまうと最初から撮り直しになってしまうので、リスクの高い撮影方法である。本作は、信頼のおける役者で固めて入念なリハーサルを重ねて作られたものに違いなく、その効果は絶大だった。

ミステリーとしての出来も悪くないが、何と言っても全編に散りばめられた三谷幸喜の笑いの仕掛けが秀逸で、これを笑わずに見るのは、ジェットコースターに声を上げずに乗るようなもので、全く勿体ないとしか言いようがない。音楽担当は聞いたことのない名前の方だが、最後のミュージカル仕立ての部分も含めて良い仕事をしていたと思う。三谷幸喜のファンにはたまらない傑作になるはずである。
(映像4+脚本5+役者5+音楽4+演出5)×4=92 点。

アラ古希