四月の雪 : 映画評論・批評
2005年9月20日更新
2005年9月17日より日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系にてロードショー
静かで奥ゆかしい人間たちを雪が祝福する
ホ・ジノの世界は俳句だ。言葉は少ないけれど余白や行間がたっぷりある。うるさい説明を避け、キャラクターの感情を豊かな映像に重ねて見せる。そんな映画だ。
「八月のクリスマス」で、不治の病に冒されている写真館の主人と自分の遺影を準備する老婆の無言のやり取りが忘れられない。死期を悟った人間だけに通じ合う優しさが、写真を撮るという行為に凝縮された美しいシーンだった。
そんなホ・ジノの世界を語るキャラクターは、静かで奥ゆかしい人間たちばかりだ。
「四月の雪」のペ・ヨンジュンとソン・イェジンも例外ではない。それぞれの夫と妻が不倫関係にあり、しかも当人たちは交通事故で意識不明の重体という、やりきれない状態に置かれているのに、2人は怒りや悲しみを外に出さない。ホ・ジノは、友人にも家族にも苦しみを隠し通し、2人だけに辛い時間を共有させることで、愛が育っていくのをじっと待ち続ける。ラブ・ストーリーを描くことよりも、今では希少価値になった、我先に自己主張しない我慢強い人間を描きたかったと言わんばかりだ。だからこそ、最後に降る四月の雪にカタルシスがある。控え目な2人の生き方を肯定し祝福する雪に見えるのだ。
(森山京子)