劇場公開日 2024年8月17日

「トリッキーな感想です」侍タイムスリッパー うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 トリッキーな感想です

2025年10月13日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

少々、トリッキーな感想になりそうだ。
メタフィクション。フィクションの中で繰り広げられるフィクションとでも言おうか。
それを一発で表現した言葉が『侍タイムスリッパー』。実に見事なタイトルだ。
時代劇の撮影村で斬られ役として生きる本物の侍。
軽妙な日常と、丁々発止の命のやり取りを同居させるこの映画ならではの演出に心を打ちぬかれた。
何より、主演の芝居が非常にいい。あまり詳しくないのでこの俳優さんのことは全く知らないのだが、それも良かった。まるで、本当に侍がトリップしてきたような印象を受けるからだ。
この先はネタバレを含みますのでもし読む人はご注意ください。
正直言って、前評判が高すぎて、見ている間はちょっとがっかり感があった。「これじゃ、駆け出しの斬られ役が斜陽の時代劇映画で成功していく物語じゃないか」というような感想だ。主人公が「本物の侍」である必然性があるだろうか?
ところが中盤で意外な展開を迎える。
同じ斬られ役から身を起し、国民的人気俳優に上り詰めていった男からのアプローチを受けた時のことだ。なんとこの男もタイムスリッパーだったのだ。この映画が秀逸なのは、それぞれの到達点に時間差があったこと。そこを上手に生かし、主人公がやがて行き着くであろう成功した姿を一瞬で表した。さらに、侍として持つ覚悟と一人の人間としての苦悩を告白し、それ故に主人公に接触してきたことを明かす。
このふたりのやり取りが非常に素晴らしい。
ふたりは、同じゴールを目指して走るランナーだ。
リードする侍は40キロ地点で、主人公は20キロ地点にいる。40キロ地点から見れば、きつい坂道だったり、向かい風も乗り越えて同じ困難に向かう後進のランナーにアドバイスを送れる。だが、ふたりともゴールは見えていない。
この構図が実に見事だ。というより、それを分かりやすく、それでいて確実に伝えきる。そのことが見事だ。
そしてクライマックス。
この緊張感は、今までの時代劇で感じたことのないものだった。
本物の侍たちが、劇映画の立ち回りの中で命のやり取りをする。この倒錯した設定に、ただ息を殺して見つめるのみ。そして見終わった後の少しの清涼感と、まだ続きがあるのかと思わせるような裏切り。
この侍たちの行く末を、もう少し見ていたいと思った。
本当は、不満点もいっぱい書きたい。でも、やめておこう。ひとつだけ、分かりやすいところで印象に残るシーンについて考察したい。
侍が、ちょんまげをやめて実生活に合うように髪を切るところ。
時代劇の役者たちはヅラをかぶり、あたかも本物のちょんまげであるかのようにしている。ところが主人公のちょんまげは本物だ。それをやめて、短く整える。それによって、少しだけ不便から解放される。現代人に馴染もうとするのだ。
このシーンがよく表していると思うのだが、簡単に言うと、リアリティが無い。そう感じた。いっそのこと、この役に合わせて本当にちょんまげを結い、劇中で本当に切るぐらいのことは出来たんじゃないか。そのような違和感を、けっこうな頻度であちこちに感じた。それが不満点だった。
そんなことはすっ飛ばして、単純に楽しめばいい。見てよかったと思う。
2025.10.13

うそつきかもめ
PR U-NEXTで本編を観る