「チャンバラ時代劇」侍タイムスリッパー なつ F列さんの映画レビュー(感想・評価)
チャンバラ時代劇
子供のころは時代劇は身近にあったなぁ。
朝、夕方、ゴールデンタイム、いろんな時代劇やってたけどあまり観ない子供だった。優子ちゃんとは違って。
幕末、会津藩の高坂新左衛門は長州藩士を討ちにいく。
そこでの立ち会いがなんだかショボくてそんな大袈裟な目逸らしに引っかかる?って思いながら雷に打たれる。
雨の降る地面に反射するオープニング。
気がつくと太秦映画村!おぉ!
戸惑いながらもうっかり時代劇撮影に混ざったり、頭をぶつけて病院に来たり、外を見たら街並みが変わってて衝撃を受けて脱走して、ポスターで140年経っている事がわかる…元の時代に戻れず、自死もできず、西経寺の住職さんに拾われる。
ツッコミポイント多いんだよ、ベッタベタなんだよ。そもそも私は生まれてこのかた髷を結った御仁にすれ違った事はござらん。
私、この映画最後まで観れるか少し心配になる。
しかし!
ショートケーキを初めて食べた時、彼は涙を流す。
単純に美味しい!ではなく命を賭しても日の本の平和を願い刀を握り仲間と戦い続けた自分の人生のその先にこんなに美味しいものを庶民が気軽に食べれる世の中になった事が嬉しいのだ。自分達がこの未来に貢献できたと。
もし、私が140年先の未来にタイムスリップして今まで見た事がない未来の極上の物を食べてもそんな感想は出ない。何故なら平和ボケだから。
もう、そんなの見たら高坂さん大好きになるじゃん。
そこから私の高坂ポイント爆上がりで何をしてても素敵。
優子ちゃんが気になってソワソワしたり、切られ役を表情までちゃんと死んでたり、龍馬に拳銃に撃たれて血糊でマジ死んだ…って走馬灯見たり。それはそうだ。銃で撃たれた経験もないし、血糊なんて知らないし死んだ事もない。「ナンジャコリャー!」てなる。素直で真面目で天然ボケ。
そんな息子にしたいNo.1な彼は住職夫婦に親しまれ、切られ役として生きる事にする。
人を斬る世の中ではない。食うに困らず平和な世の中。自分に出来る事は唯一褒められた「斬られ役」
その時の優子ちゃんの作品に救われた高坂、そんな言葉に毎日忙しく働き愛情を持ち作品を作る優子ちゃんも救われていた。
お師さんとの稽古で毎回切っちゃう所、お師さんのきちんと決めてくる死に顔に斬られ役マスター感を感じて笑いが止まらなかった。ずっとやって欲しい。
そんな斬られ役のスターダムに登っていくのだが、何がいいって周囲の人々がとにかく良い人ばかり。
新人斬られ役にいじめをするわけでない先輩、主演の俳優も奢りだ〜って一緒に声をかける。
彼は時代劇が失われつつある世の中に時代劇という自分の生きてきた過去を残し「斬られたモブ」として大切に作り続ける。
いいぞいいぞ、高坂くん。
そしたらまさかあの!長州藩士の山形がいるじゃないの!
しかも大スター。彼は時代劇の大作作りに高坂を抜擢し、自分が高坂より30年前にタイムスリップをして同じ様な経緯でハリウッド進出までしていた。
うわ〜すごい胸熱展開きたよ〜思いもしない舵取りにワクワクが止まらない。
過去は敵同士だった2人、今では高坂が大事にしている時代劇を風見は捨ててしまった。唯一彼らが生きてきた時代を模した作品を捨てた事を高坂は許せない。
馴れ合うつもりはない…なスタンスで接する高坂だが風見は好意的。30年の重みは違うのだろうね。
2人だけで話す時お江戸言葉になるのいいなぁ。
140年前でもやはり人を斬るのは辛く今でも思い出す風見も敵対はしてても悪人ではないのだね。
恨み顔が忘れられない。成仏してくれ…腰を落とし声をかける事。時代劇だからこそ風見はその気持ちを吐き出す事ができた。
会津藩がどんな目に遭って途絶えたのかを知り激しく動揺する。自分の守ったニッポンは平和になったが仲間や家族達がどんな目にあったか。それは複雑で吐き出し口が分からない。そうね。過去の事だしもう済んだ事。しかし自分はここで何不自由なく暮らしている。思いがループする。
風見と真剣で勝負に挑みその心を汲み取った風見も了承し、真剣で撮影が始まる。
長い睨み合い、両者動かない…この辺で私は泣けてくる。鯉口を切った瞬間激しい打ち合いが始まる。キンッと金属音と空を切り裂く音。殺陣ではない。しかし2人の勝負は明らかに140年前より剣筋が出来上がっている様に見える。まさか未来の時代劇、むしろ「ごっこ遊び」の様な時代劇の斬られ役として剣王に近づいていた彼ら。
もうやめようよ〜平和なんだからいいじゃん〜仲良く撮影して〜とグスグス泣いていたので他の観客には迷惑をかけてしまった…
成仏してくれ。
倒れる風見と舞う血飛沫。
を、観る住職夫婦。
よ、良かった…
優子ちゃんにはビンタ一発かまされ、無事に撮影終了。
決して主役を演じる側にまわるではなく、その後も斬られ役として生きていく彼がとても好き。
剣心会でお師から学び続け、住職夫婦と仲良くコンビニのショートケーキを食べ、優子ちゃんへなかなか想いを伝えられない甘酸っぱい平和なこの世を生きて欲しい。
きっと風見もこれからの時代劇を支えていくからたまにはウィスキーを呑みに行ってお江戸言葉で語れば良いよ。
優子ちゃんの服装がダサいのが良かった。
決してボーダーのポロシャツがダサいのではなく、全体的に野暮ったくオシャレよりも時代劇を作る事に邁進しているというキャラが好き。
高坂さんとの恋愛フラグはなかなか立たない予定。
設定がガラケーだったりパラボラアンテナが乱立してたりするからやや昔なのかな。
それなら高坂はまだ時代劇を続けているのかな?テレビをつけたら斬られ役としてまだいるかもな〜なんて思いながら庶民の幸せコンビニのショートを買って帰った。
こんな風に登場人物達の幸せを願える作品は良作。
