「予想外に熱い人間ドラマ」侍タイムスリッパー といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
予想外に熱い人間ドラマ
多くの映画マニアの人達が絶賛していた本作。低予算の自主製作映画で、元々は一館のみでの上映予定だったにも関わらず口コミで評判が広まり、現在は全国規模で上映されているという『カメラを止めるな』を彷彿とさせる作品です。私の住む映画過疎地の秋田県では話題になっていてもしばらく上映が無かったのですが、今月から大館市にある御成座さんにて上映がスタートしたので遅ればせながらの鑑賞です。「幕末の侍が現代の時代劇撮影所にタイムスリップする」というあらすじだけ知っている状態での鑑賞でした。
結論ですが、めちゃくちゃ面白かった!!
時代劇をテーマにした作品ですが、舞台となるのは現代ですので分かりづらさや難しい場面などはほとんどありません。幕末の歴史について中学校で習ったくらいの知識があれば十分理解できる内容だったと思います。幕末の侍が現代にタイムスリップし、現代日本で時代劇に出演し、「斬られ役」で人気となっていくというストーリーは新鮮でもあり、時代劇などについても深く考えさせられる内容でしたね。中盤以降に起こる展開も盛り上がりましたし、賛否両論分かれているらしいラストの展開も、私は肯定派です。とにかく、最寄りの映画館で上映されているなら今すぐにでも鑑賞してほしい名作映画だと思います。
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時は幕末、会津藩士の高坂新左衛門(山口馬木也)は長州藩士の暗殺のために京都の寺の前で待ち構えていた。標的である長州藩士・山形彦九郎(庄野崎謙)と刀を交えていたところ、突然雷に打たれて気を失ってしまう。新左衛門が目を覚ますとそこは、現代の時代劇撮影スタジオだった。
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侍のタイムスリップ。非常にシンプルなストーリーでありながら、この映画は非常に深く面白い作品でした。
現代にタイムスリップした新左衛門が優しい寺の住職さんに助けられて住み込みで寺の手伝いをする流れから斬られ役になるまでがスムーズで分かりやすくてよかった。テレビで見た時代劇に感動し、ひょんなことから斬られ役として参加し、時代劇製作スタッフたちの情熱や技術に対してさらに感動。有名殺陣師に弟子入りし斬られ役として大成していく。
全体的にストーリーがテンポよく進んでいくのが見ていて気持ちよかったですね。物語が向かう方向やキャラクターたちが何をするのかがきっちり画やセリフから分かるようになっていて、間延びするシーンもなく最初から最後まで楽しかったです。
分かりやすくありながら、かなり掘り下げがいのある深いストーリーですよね。新左衛門は斜陽産業である時代劇と衰退しつつあった幕末の侍を重ねて見ているんだろうな、とか。
新左衛門が時代劇の斬られ役として人気が出てきた映画中盤から、物語が一気に動き始めます。ハリウッドで活躍していた伝説の時代劇俳優の風見恭一郎(冨家ノリマサ)の主導で、一大時代劇の制作が決定し、その主演俳優として新左衛門に白羽の矢が立つという展開です。初めのうちは自分には荷が重いと感じ断ろうとした新左衛門だったが、風間から明かされた衝撃の真実と、その後の風間や師匠である殺陣師関本とのやり取りで考えを改め、主演のオファーを受けることにすると言う展開ですね。
風間から明かされた衝撃の展開は本当に驚きましたね。「まさかそんな展開があるのか!」と、映画館で感嘆の声を上げそうになりました。このシーンが、個人的に一番テンションの上がったシーンだと断言できます。
映画の撮影が始まり、一番重要なラストシーンをどうするかという時に新左衛門が提案したのは、「真剣を使っての斬り合い」という無謀なもの。助監督の山本優子(沙倉ゆうの)は必死に止めるものの、監督と風間はやる気十分。終盤の殺陣は真剣での命懸けの撮影となってしまった。
正直、他の方のレビューを確認する限り、この真剣での斬り合いというのは賛否両論あるっぽいです。私もなんでいきなり真剣での斬り合いをしようってなるのかは理解できません。ただし、理解はできなくとも私はこの真剣で斬り合いをするというラストシーンは息をのむ素晴らしいシーンだったと思います。撮影が開始されてしばらく続く睨み合っての膠着状態。これは黒澤明の椿三十郎のオマージュらしいですね。映画上映トラブルかと思うくらいに睨み合いのままピタリと静止して動かない二人のシーンでは、映画館全体が完全に無音になるほどの緊張感に包まれました。そして突然始まる激しい斬り合い。緩急が素晴らしく、圧倒される迫力でした。
映画のラストではコメディ映画らしく、ちゃんとオチつけてくれたところも結構好きです。
不満点はほぼ無い素晴らしい映画なんですが、劇中のコメディシーンでいくつか間延びしてるなと思ったシーンがあったので(落ちるとか滑るとかのシーン)、そういうシーンを短くしてくれたらもっと見やすくなったかな~という印象ですね。
本作は映画そのものもめちゃくちゃ面白いですが、裏話も含めて制作陣の情熱が感じられる作品だと思いますので、これから映画を鑑賞される方はパンフレットの購入をおススメします。時代劇の助監督役で出演していた沙倉ゆうのさんは、『侍タイムスリッパー』でも助監督として仕事していたというところとか。
本当に素晴らしい映画でした。オススメです!!!!!