「シン・ラストサムライ」侍タイムスリッパー レントさんの映画レビュー(感想・評価)
シン・ラストサムライ
この作品には名の通った役者さんは一人もいない。というか、少なくとも私が知っている役者さんは一人もいなかった。
しかし本作は超一級の作品に違いない。いや、ここ数十年見た中で一番の邦画実写映画だと言っても過言ではない。有名俳優を贅沢に使い、中身が空虚な作品ばかりが世に目立つ中で、これほどの完成度の高いエンタメ作品は個人的には「ダイ・ハード」以来だ。
見事な脚本、魅力的なキャラクター、役者さんたちの演技力、どれをとっても非の打ち所がない。まさに文句のつけようがない。よくぞこんな素晴らしい作品を作ってくれました。これはインド映画の「RRR」をも凌駕するほどのエンタメ作品だ。
これこそが真のエンタメだ。聞いてるか、三谷幸喜よ、これが真のエンターテインメント映画だ。名前におぼれた劇作家の目に本作はいったいどう映るんだろうか。
本当にいい映画を見たときには思わず落涙することがある。別に泣かせるシーンとか感動させるシーンでなく、本当によく作られてるなあと感心して感動して泣いてしまうのだ。作り手の観客を楽しませたいという熱い思いがひしひしと伝わるからなんだと思う。本作にはそういうシーンがいくつもある。
たとえばタイムスリップした高坂が独り現代の街の中をさまよい歩くシーン。もうこれだけで異世界に迷い込んでしまった彼の孤独な心情が映像を通して見事に映し出されいて感動してしまう。なんてうまいんだと。そして後半、同じ時代の風見がベテラン俳優として姿を現したときにもやはりその見事な脚本に感動してしまった。
終盤の真剣を使った真剣勝負のシーンでは劇場の観客は私を含め静まり返っていた。みんな息をするのも忘れるくらい張りつめた緊張感に包まれ、まさに本物の侍が目の前で真剣勝負をする姿に映画の中と同様私のいる劇場も固唾をのんで見守っていた。そして決着がついたシーンでは思わずあ、と心の中で声が漏れてしまうほど。
ここまで映画を固唾をのんで見たのはやはり若かりし頃「ダイ・ハード」を劇場で鑑賞した以来だった。まさにマクレーンがハンスと最終決着をつけるシーンに匹敵するほどのシーンであった。
まさか若いころの感受性豊かな頃に感じた感動を再び感じれるとは夢にも思わなかった。本当に本作は奇跡のような作品。
侍が現代にタイムスリップしたらなんていう手垢のついたプロットでここまでの傑作を創り上げた監督にはただただ脱帽である。
知らない役者さんばかりだと書いたが、俳優のみなさんとても魅力的で逆に知らなかった自分を恥ずかしく思うくらい。もっと出演作品が多くてもいいと思うのだけれど。ただ主演の方も時代劇を中心に活躍されていて私自身も時代劇を最近あまり見ていないので致し方ないのかも。私の子供の頃は確かに「遠山の金さん」とか「仮面の忍者赤影」とか夢中で見てたっけ。赤影はちょっと違うか。
本作ではまさに下火になりつつある時代劇への思いが熱く語られる。本作の成功や真田さんの「将軍」をきっかけに再び時代劇人気が盛り返すんではないだろうか。安田監督と真田さんが力を合わせればそれは十分可能だと思われる。二人のタッグを見てみたい。
鑑賞したのがイオンシネマ大日で、まさに寺の和尚夫婦が映画鑑賞したシーンのロケで使われた場所、それだけでもなんだかうれしくなる。
ファンタジア国際映画祭で観客賞を受賞したとのこと。いやいやこんなもんじゃないでしょう。アカデミー賞も狙えるよ。日本のじゃないよ、本場ハリウッドのだよ。何ならカンヌもベルリンもついでにどないだ。ロッテントマトの評価なら間違いなく100%いくだろう。
ちなみに二回目鑑賞する時までにパンフレットの制作よろしくお願いします。