「ブラック企業が勝ってしまう物流業界の陰陽」ラストマイル Saiさんの映画レビュー(感想・評価)
ブラック企業が勝ってしまう物流業界の陰陽
非常に残念ながら、物流業界はブラック企業が勝つ仕組みであり、本作はその根本に迫るものであり、複数の登場人物の視点から、あるものは見て見ぬふりを、あるものはあらがい、あるものは潰れ倒れていくことを捉えていく作品である。
消費者はより安くより早くを求め、経営陣はブラックフライデーなどの繁忙期を作って売上を達成するために現場に高負荷のオペレーション「2.7m/s」以上を求め、センター管理者は達成のためにたった7名で700人の派遣労働者を扱い彼らを非人間的要素として90%未満達成時の減点化を求めると共に主従契約に近い形で運送会社に安い委託配達と厳格な管理を求め、
運送会社管理職は下請けに昼休憩さえ取れない1個150円の200軒配達しきることを命を犠牲にしても求める形に晒されている。
そして消費者のより安くより早くを求めた企業が大きくなり、原価の高い製品の企業は売れず潰れて配送の仕組みに組み込まれていく。
この巨大暴走機関車を止めるためにあるものはベルトコンベアにダイブし、あるものは無差別爆破テロを起こす。そしてテロに巻き込まれても止めてはいけない社是と自身も命を落としそうになって立ち返った満島ひかり演じるセンター長と運送会社のストライキによりセンターは一時的には止まるが、経営方針が見直されることもなく阻害要因として排除、または1個20円アップのみで、また暴走機関車は走り出し、次の管理職はそのノルマへの恐怖とブラックな環境に押しつぶされていく。
日々より安くより早く(Daily Fast)を求められ巻き込まれる物流業界の労働者の犠牲と、外部で安く早く受け取れる幸せを享受できる消費者の対比を通して、物流危機を考えさせる契機になっている本作は成功と言えるのだろうと思った。
それと同時に物流業界に身を置くものとしては、労働者は使い潰され持続不可能に近い、この業界の限界も就活生などに教えますます人手不足が助長されることも危惧している。