劇場公開日 2024年8月23日

「視聴者への風刺の投げかけと自省の強制が辛い」ラストマイル 作弥さんの映画レビュー(感想・評価)

2.0視聴者への風刺の投げかけと自省の強制が辛い

2024年8月24日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

「過去2作と繋がるノンストップサスペンスエンターテインメント」
この宣伝文句からお出しされたものが社会、ひいては物流を利用する我々視聴者への問題提起なのである。はっきり言って暴力的だ。
シェアードユニバースを謳い、世界観の広がりを謳い、エンタメ性を謳っていながら、不意打ちで「この社会の問題の当事者はあなたです」と投げつけられる。
そもそもこちらはシェアードユニバースの世界観に浸りたいのである。社会問題を訴えたいならそういう映画をそういう広告で作るべきだ。
いきなりコレを投げつけられて、私はしんどく感じてしまったし、しんどいと思うこと自体が「問題に向き合っていない」ということになるんじゃないかと感じてしまっている。
社会問題を訴えるのはいい。作品に活かされているならいい。或いは連ドラの一エピソードであれば、考えさせられる話があった、ということで視聴者も当事者意識を持ちつつしんどい感情にならずに済むかもしれない。でもこの社会風刺は、作品の前に出てきてしまった。これをエンタメとして広告を打つのは、視聴者への不意打ちの暴力だと、私は感じてしまった。風刺や批判に当事者意識を持たせることが目的だとしても、不意打ちでそれを行うのは、卑怯だと思った。

また、予告編で過去作との繋がりを強調した割に要素は薄い。メイン2人に感情移入する時間が無い。これならUDIラボと機捜とデリファスでチーム組んだ方が良かったんじゃないかなと感じた。

過去2作のキャラとコラボして爆弾魔を追う、という触れ込みだったのに対して、過去2作のメインキャラは要所で登場する程度で縦軸の2人とは絡まなかったのが肩透かしに感じる人もいるだろう(ラストマイルのメイン2人の存在感を邪魔しないための采配だと理解してはいるが、毛利さんと刈谷さんとしか絡まないのは寂しい)。

そもそもメイン2人に感情移入できない。
特にエレナはこの非常時に何言ってんだお前、という感じだし、前半の羊運送への当たりがキツイのが見ていてしんどくなる。とはいえこれが物流の闇である、という風刺なのだろうが。この後に彼女自身の話や筧との会話についての告白があるわけだが、これまでの情報開示の上でそれがあったとしてスっと感情移入できるのか、と言う話でもある。少なくとも気持ちよく好感を持てるキャラでは無い。
予告にある五十嵐の「何ができたっていうんだ」という言葉はエレナや五十嵐等の、作中の「強い者」を象徴するセリフであるが、それに説得力を持たせる掘り下げが無かったので、キャラに惹かれないのだ。
孔についてはシンプルな描写不足。孔の人となりはわかるが、バックボーンを「考察したい」と思わせる魅力や描写がない。前職がブラックですり減ってしまったことは説明されるが、それ以上のことは分からないし、興味を抱けない。

逆に佐野親子や八木は共感性の高い役でポジションも分かりやすいので、少ないシーンでも共感が湧く。彼らの何気ないシーンが伏線として活きるところもいい。彼らは実際に「私たち」だからこそ、少ないシーンで共感出来る。

物語のメイン舞台が終始配送センターの倉庫なのもスケールが小さいと感じた。空輸なども含め全国規模でてんやわんやなのかと思ったのでココは明確な肩透かしポイント。とはいえミクロな部分をフィーチャーする選択をしたと考えれば納得のしようもあるが。実際上記のように下請けの羊運送の悲喜こもごもには強く感情移入できた。

UDIラボと機捜のシーンは文句無し。最高だ。これが見たかった。UDIラボと機捜とデリファスでチーム組んで素直に作った方が良かったんじゃないかなと思う。

総じて、あのアンナチュラルやMIU404のような感情をダイレクトに揺さぶられる鑑賞体験や、彼らとのコラボレーションを期待すると肩透かしを食らう。
エンドも良くも悪くも視聴者に委ねる形な上、明確なボスキャラが居ないので2時間のエンタメ作品の鑑賞後の余韻としてはパッとしない。
総じて、映画単体としてはメインキャラに感情移入や共感がしづらく、シェアードユニバースとしても広がりを感じない、微妙な作品だという評価をせざるを得ない。

伏線回収の巧みさや、過去2作のキャラのアフターを楽しむことはできる。

作弥