「いい映画だった」ぼくが生きてる、ふたつの世界 ONIさんの映画レビュー(感想・評価)
いい映画だった
観てよかった。ドーンと来た。若い監督たちの作品を連続して観てたけど、ベテランと言ってはなんだけど、呉美保監督の長編映画のキャリアだからできる105分の勝負を見せてもらった感じ。
まったく前情報なしで観たので冒頭からどこに飛んでく話かまったくわからず、かと言って音楽もほとんど鳴らないし、とある家族(ただしコーダの家庭)が映し出されて、人が成長し、人が亡くなったり、倒れたり、そこはドラマの外にあって淡々と時間は進む。人生のスケッチ。そして、これはコーダだからどうのこうのでなく、ただの地方に生まれ、地方に暮らすただの家庭の普遍的なスケッチを追いかけているうちに(やたらイケメンの子供の成長がイケメン繋がりで凄いなとか思いながら)、しばらく映らなかった母が東京で暮らす青年のもとで電話越しに声にならない声で息子の名を呼ぶのを聞いた時に泣き、ラスト前後に至ってはボロボロになって声が出るのを必死に抑えて泣いていた。卑怯である。忍足亜希子演ずる母親のああいう顔を僕らは見たことがあるのだと思う。実際の世界で。妙なドラマではなく、ただの生活のすみっこで、相手にはなんでもないのにこちらが感極まって、想いが浮かび上がってしまうとき、ただの相手の無垢な顔、普通の後ろ姿にいろんなものをのっけてしまう。あんな経験きっとある。そのアンチドラマな生活の本当のドラマをすっと描きだして見せてくれたこの作品に、ああ、映画を観たな、と思った。よかった。
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