「フラッシュバックで思い出せる「笑顔がある人生」は素晴らしい」ぼくが生きてる、ふたつの世界 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
フラッシュバックで思い出せる「笑顔がある人生」は素晴らしい
2024.9.23 一部字幕 MOVIX京都
2024年の日本映画(105分、G)
原作は五十嵐大著作のエッセイ『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと(幻冬舎)』
コーダとして生きてきた青年の成長記録を綴るヒューマンドラマ
監督は呉美保
脚本は港岳彦
物語の舞台は、宮城県のとある町(ロケ地は宮城県塩竈市)
ろう者同士で結婚した五十嵐陽介(今井彰人)と明子(忍足亜希子)は、25歳の時に待望の第一子を出産した
大(乳幼児期:有馬麦、幼児期:横山るい、4歳時:畠山桃吏、青春期〜成人期:吉沢亮)と名付けられた男の子はスクスクと育ち、耳も普通に聴こえる状態だった
育児は、明子の父・康雄(でんでん)、母・広子(烏丸せつこ)、姉の佐知子(原扶貴子)がサポートにあたり、大は何の問題もなく育っていった
その後、小学校に上がった大は、祐樹(嶋田鉄太)と仲良くなり、自宅に遊びにくるようになった
祐樹は大の母が辿々しく話すのを聞いて、当初は日本語が喋れないのかと思っていた
大にとってはそれが当たり前の日常で、その日以降母親を恥ずかしく思うようになり、授業参観のことも隠すようになっていった
物語は、前半が大の成長物語、後半になってから、東京で一人暮らしをする中で、過去を想起するという構成になっている
志望校に落ちた大は、そのまま不本意な高校生活を送り、卒業後は東京に出て役者をしようなどと考える
だが、その根本は母親の元を離れたいというもので、俳優になりたいという熱を相手に伝えられない
それでも、東京で生きていくことを決めた大は、母親にスーツを買ってもらうことになった
そして、それを片手に「自分探し」を始めるものの、やりたいことが見つからないまま、パチンコ屋でアルバイトをして生計を立てるようになっていた
映画は、このパチンコ屋にて、ろう者の客・智子(河合祐三子)と出会い、そのつながりで手話の会に参加する大が描かれていく
ろう者の彩月(長井恵里)たちとの交流を経て、智子から「私の話を書いてくれない?」と冗談混じりに言われるようになる
彼女たちとの出会いによって、大は出版の道を目指すようになり、ある零細編集プロダクションにたどり着くのだが、そこは劣悪な環境で、社長の河合(ユースケ・サンタマリア)や社員の上条(山本浩司)も逃げてしまう
そこから、フリーライターとなり、医療に関わる現場を取材するようになっていくのである
ほぼ成長日記という感じで、吉沢亮が登場するまでに半分ぐらい過ぎてしまう印象
まさかの中学生役から登場には驚いたが、反抗期時代から、やぐされる社会人時代まで違和感なく見れるのは凄い
ラストは少しだけ時系列が変わる内容になっていて、祖母のために帰省するシーンが描かれる
そこで母親に言われた言葉で「かつての対話」を思い起こすことになり、目を見て話すことの尊さなどを再確認していく
そして、本書の原作にあたる原稿を書き始める、という流れになっていた
このシーンにおける母親との対話のシーンはとても印象的で、そこからエンドロールに向かう流れは神掛かっているように思えた
いずれにせよ、コーダを取り扱った作品で、その半生がどのように動いていくのかがリアルに感じられる内容だった
両親が大について話すシーンにて、「どこの家庭にも色々と問題はあるものだ」という趣旨の言葉が出てくるのだが、この物語で描かれる内容はコーダだけに訪れるものでもないと思う
母親が自分の進路に相談に乗ってくれないとか、両親との対話や生活のために自分が犠牲になっているという感覚などは、いろんな家庭にもあるものだろう
相談すべき存在がいない家庭もいれば、日本語を話しても通じない親もいるし、家族の特異な部分がからかいの対象になることも多々ある
少年時代のように、自分自身が確立していない頃は「家族が自分のステータス」みたいな部分があるので、それをどのように捉えるかで考え方が変わってくるのかな、と思った
大は違う世界に出て初めて、そこまで特別なことではないと考えるようになっていて、自分が捻くれていた時間の貴重さを感じたのだろう
そう言った意味において、親に反抗した時期がある人ならば、刺さる部分が多いのではないだろうか