「監督・伊藤詩織」Black Box Diaries Syochan17さんの映画レビュー(感想・評価)
監督・伊藤詩織
性被害という否定し得ない現実を正面から記録し、沈黙を強いられてきた構造を可視化した点で、告発としての正当性を疑う余地はない。加害者による言い訳や逆訴訟の応酬には、怒りと嫌悪を禁じ得ない。
一方で本作には、被害者であり同時にドキュメンタリー映画の演出・監督である人物が、自身を前面に立てて物語を組み立てていくことへの違和感が残る。象徴的なのが、ホテルのドアマンとの電話の場面だ。声だけで語られる証言に対し、カメラは距離を保ったアングルで監督自身の表情を捉え、沈黙や嗚咽の間まで含めて感情の行き先を導いていく。その構図は偶然の記録というより、明確に設計された映画的瞬間に見える。そこでは、伊藤詩織が演出し、伊藤詩織が演じている。
それは被害の軽視でも虚構化でもない。しかし、関わった人々の人間関係や当事者の思いが十分に顧みられないまま、結果的に利用されたのではないかという印象は拭えない。そこに、ジャーナリストという職業が本質的に抱える「業」が透けて見えた。
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