「匿名で本音をぶちまける時代に生まれた、ふれるコミュニケーションの弊害」ふれる。 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
匿名で本音をぶちまける時代に生まれた、ふれるコミュニケーションの弊害
2024.10.4 イオンシネマ京都桂川
2024年の日本のアニメーション映画(107分、G)
内向的な少年が謎の生物を通じて友情を育んできた様子を描く青春映画
監督は長井龍雪
脚本は岡田麿里
キャラデザは田中将賀
制作はCloverWorks
物語の舞台は、間振島の海岸
少年・秋(瀬戸麻沙美、成人期:永瀬廉)は、海岸沿いに奇妙な空洞を見つけた
そこに詰まっていた石を退けると、その奥には謎の空間があり、彼はそこで奇妙な生物を見つけることになった
バケツに入れて教室に持ち帰った秋は、クラスメイトの諒(田村陸心、成人期:坂東龍汰)と優太(豊崎愛生、成人期:前田拳太郎)に見つかってしまう
だが、その生物には不思議な力があって、それにふれることで「話さなくても相手の考えていることがわかる」ようになっていた
それから3人は仲良くなり、謎の生物に「ふれる」と名づけ、その後もふれることで対話を成立させてきた
そして、彼らは活動拠点を東京に移し、そこで共同生活を始めることになったのである
秋は近くのバー「とこしえの椅子」にてバーテンダーとして働き、諒は不動産屋に就職をする
優太は服飾専門学校に通うことになり、3人の食事は秋が受け持つことになった
ある夜のこと、街角でひったくりに遭っている女の子を見た秋は、その犯人を捕まえるために奔走する
そこに諒と優太も加わって、相手から女の子のカバンを取り戻すことに成功した
彼女は奈南(石見舞菜香)と言い、優太と同じ服飾専門学校に通っていて、彼女は幼馴染の樹里(白石晴香)と一緒に東京に出てきていた
そこから彼らには交流を始めることになり、3人の住む下宿を訪れ、さらには一緒に住み始めるようになるのである
映画は、コミュ障少年がふれるによって友達ができるというファンタジックなものになっていたが、実は「ふれる」にはフィルターがかかっていたという内容になっていた
そのフィルターは「仲違いしようなワードを排除する」というもので、それによって、聖人君子同士の会話みたいなことになっていた
それが顕著になるのが「異性問題」だったという展開を迎えている
3人の男と2人の女ということで、誰かがあぶれてしまう問題があって、その牽制をしてきたものがフィルターによって伝わっていなかったことがわかる
それによって、さらに関係が悪化していくのだが、それらは「楽をして関係を築いたから」という結びになっていた
彼らが楽をしたくてふれるを利用してきたというよりは、ふれるの存在によって「知らず知らずのうちに楽をしてきた」というものなので、少しばかり物語の展開に違和感を感じてしまう
いつしか「ふれるコミュニケーション」に頼って、言葉を封印してきたからとも言えなくはないが、言葉をぶつけ合う以前に「関係悪化要素の意図しない排除」というものは彼らを責める材料にはならないように思えた
いずれにせよ、フィルターが発覚するところがピークで、そこから先の紆余曲折は収まるところに収まっていくという感じになっていた
元々、人間関係はフィルターがかかっているものなので、それが発覚したところで、そんなものだよねというふうになりがちだと思う
そう言ったものを介さない状況の方が人間関係としてはリアルではないので、フィルターのない人間関係というのは逆に成立しないように思えた
そう言ったものに頼ってきたというよりは、それをなんとか伝えようとしたけどふれるが排除してきたことを考えると、ちょっとかわいそうかなあと思った
それを考えると、共通の敵はふれるだったということになるのだが、物語はそっち方面にはいかないので、なんともまあ不思議な話になっていたなあと感じた