「創作しない歴史忠実・動く宮廷絵巻ドラマ」ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人 クニオさんの映画レビュー(感想・評価)
創作しない歴史忠実・動く宮廷絵巻ドラマ
豪華爛熟フランス宮廷絵巻です。ジョニー・デップが悪女アンバーとやっと決別出来た後に最初に取り組んだ作品、って言う惹句が先行し、何やらスキャンダラスな印象が漂ってましたが、おやまあ実に真っ当な歴史絵巻、それも上質な仕上がりに驚きました。フランス革命前の宮殿の中での日常が克明に描かれ、教科書的な程に丁寧なのです。脚色もほぼ分かっている事実に即し、控えめでもなく誇張もなくの正確を維持でしょう。だからこそベルサイユ宮殿でのロケもシャネルによる衣装提供も可能になったのでしょう。
ただ、最大の映画化での焦点は、本作の監督・脚本を担ったマイウェンなる女性が主演のジャンヌまでも演じていることに尽きましょう。この方、かのリュック・ベッソンの奥様だった方のようで、お綺麗と言えばそうでしょうがタイプとしてアカデミー賞を二度も受賞のヒラリー・スワンクに似ており、骨格が浮かび上がるような骨太タイプの方ですね。本音を言えば、本作で少女時代そして妙齢の頃と役者がそれぞれ担ってますが、この20代の方の美しさならば・・との願い虚しくマイウェンさんに早々にチェンジでがっかりした次第。肝心のルイ15世が一目ぼれするプロットを観客に納得させるのはチト無理でしょう。ただ、背丈もスラリとしたモデル体型で豪華衣装がピタリと決まっているのは確かです。
この主役以外のキャスティングは絵に描いたように完璧で、ジョニデのルイはもちろん、側近ラ・ボルトの忠誠の愛情、馬鹿三人娘のまるでディズニーアニメから飛び出したような醜さ、将来のルイ16世となる王太子はベルばらから抜け出したような長身端正美青年、マリー・アントワネットの幼くも白い肌と気品です。動く宮廷絵画を完璧に描いてます。
「貧しい家の出」の少女が器量と機転で宮廷に上り詰めるサクセス・ストーリーは楽しいけれど、多くの国民が貧しいのはブルジョア支配の結果ですから悩ましい。許せないのは「卑しい身分の出」の言い回しが日本で散見される事ですね。貧しいならまだしも卑しいなんてあり得ない。そして本作に登場するジャンヌへのプレゼントとして「小姓」が差し出されるが、黒人の少年です。これは史実でしょうが、アフリカ大陸からほぼ拉致されてきたであろう少年の哀れを想像してしまう。幸いにもルイとジャンヌに愛されたからよかったものの、ルイの馬鹿娘達の好奇な対象には耐えがたかったでしょう。そう言えば「首」で織田信長にも黒人の小姓が描かれてましたね。
個人的に私は現在、アマプラで「オスマン帝国外伝」を視聴しており「大奥」とまるで同じに驚き、さらにNHKの大河「光る君へ」も同じ、そして本作もまるでプロットは同じと、王の寵愛を得るがための奮闘に同情しつつも、王の身勝手にも辟易させられてます。その点ジョニー・デップのルイ15世は公妾を庇うスタンスが強く節度もあり嫌味は薄い。
それにしても宮廷内の仔細の興味深いこと。王に絶対に背を向けない、先に言葉をかけてはいけない、髪をアップか下ろすかによってドレスコードが大きく異なる、お辞儀の仕方、目を見てはいけない、ドレスの色も要注意、王の風前の灯の命をローソクで告知、立ち居振る舞いすべてに制約、そして王崩御の悲しみから即、新国王誕生の悦びなど、フランス本国の作品なんですから、すべて忠実なんですね。この点だけでも価値はあります。
のし上がってゆくには、それ相応の覚悟が必要で、嫌味・皮肉・攻撃・中傷などなどに、へこたれては務まらない。伝染病であった天然痘に侵された王に親身に接する事が出来る、その根底に真実の愛があるからこそ可能となったわけで、処世術の教科書でもありました。