劇場公開日 2025年4月11日

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「痛快モノではない」サイレントナイト りおりおりさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0痛快モノではない

2025年4月12日
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鑑賞方法:映画館

怖い

聖夜と静けさをかけたタイトル。主人公は冒頭、銃に撃たれて声が出せなくなり、全くセリフがありません。

子供が流れ弾に当たって突然亡くなった。それに激昂した親が犯人に復讐する、映画やドラマでは一見ありふれた内容に感じるテーマ。多分この映画を観て酷評している人の多くは、その慣れたテーマの爽快復讐劇を期待していたのではないでしょうか。

でも、私は全く違うテーマを感じました。この映画は、目の前で大切な人の命を不可抗力で奪われた人たちに送るメッセージなんだと。
子供が目の前で殺されて、どこにぶつけていいのかわからない深い悲しみと憎悪を抱えた、そんな人たちがやり遂げたいと思う事をこの主人公にやらせてみせて、抑止力にしたいのではと感じたのです。

アメリカは銃社会で、日本にも流れ弾で亡くなられた様々な事件のニュースが届きます。でも、銃の所持はいまだに認められています。
頭の片隅に「へーそんな怖い事件あったんだ」くらいにしか感じない出来事の先にはこのようなご家族がいらっしゃるのです。
そしてそれは、特別な能力も技術もない、一般人がほとんどなのです。
今上映中の映画に、プロフェッショナル、アマチュア、ベテラン、がありますが、この映画のタイトルは差し詰め「素人」です。殺しなんて全く無縁の、ごくごく普通のパパなのです。
その素人が考えつく復讐劇は、多分このレベルなんです。銃の調達、筋トレ、ドリフトや射撃の練習に憎き犯人の調査などなど。子供を失った悲しみで無気力な毎日から、復讐という目標のおかげで生きる活力を取り戻したのです。
そしていざ実行に移すと、やっぱり素人なんです。いくら動かない相手にhow to動画で得た情報を練習しても、実際は当たり前に反撃されるし、思うようにはいかない。いざ銃を撃って人を殺してしまったら、吐いてしまうんです。でもそこでタガが外れるのも、素人だからこそなんだと思います。
そして最後の妻に宛てた手紙が、この物語の全てです。復讐をしても子供は戻らない。わかっていても命をかけてやりたかった。これに尽きます。
そしてこの映画は問いかけるのです。大切な人を亡くした人たちに。本当にこれでいいのか?と。

兎角男性が陥りやすい復讐心。この主人公は復讐に全ツッパしましたが、さて、妻サイドから考えてみましょうか。
子供の死の直後、妻は病院で変わり果てた夫と再会します。幸せなクリスマスイブに子供だけでなく、夫も失うところだったのです。夫だけでも助かってと日々暮らした事でしょう。でも回復しても夫は何もせず、悲しみから立ち直れない。妻は子供の死を受け止め、それでもやっぱり生きていかなきゃと仕事にも出ています。
生きてさえいてくれればいいと思っていたのに、心ここにあらず。本当なら子供の死で受けた心の傷をお互い慰め合い、支え合っていけると思ったのに。それどころかある日突然杖を捨てて明らかに復讐心むき出しで何やら始めている。抱き合っても見ている先は自分ではない。この人の目に私は映らないし、この人が生きていくのに自分は必要とされていないんだと悟り、家を出ます。
そして最後に手紙を読んで思ったでしょう。私を愛してるならなぜ思いとどまれなかったの?と。
流れ弾で失ったのは子供の命。言うなればそれだけなんです。でもこの妻は、夫も家族も失った。主人公は自分の人生そのものを失った。守れなかった命の他は、自分自身で壊したに過ぎないのです。
銃だけでなく、様々な不可抗力で突然愛する人を失い深い悲しみを抱えた全ての人たちに、これ以上悲しみを連鎖させないで!自分の人生見つめ直して!復讐するってこういう事だよ、と客観的に考えて欲しい、そんな強いメッセージを感じました。
そして銃のない日常を!そんな映画でした。

りおりおり