「結論を恐れる者、結論を急ぐ者、その両者には見えなくなるもの」DitO Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
結論を恐れる者、結論を急ぐ者、その両者には見えなくなるもの
2024.7.29 一部字幕 アップリンク京都
2024年の日本&フィリピン合作の映画(118分、G)
ボクシングに固執し、フィリピンで再生を図ろうとする男とその娘の再会を描いたヒューマンドラマ
監督は結城貴史
脚本は倉田健次
原題の『DitO』はタガログ語で「居場所」を意味する言葉
物語の舞台は、フィリピンのルソン島バギオ
幼少期にその場所に来たことのある桃子(田辺桃子、幼少期:鈴木さくら)は、父・英次(結城貴史)と母・ナツ(尾野真千子)の思い出に耽っていた
だが、母が他界し、高校生の桃子は父を頼らざるを得ない
そこで桃子はミンダナオ島のカビテのジムを訪れ、父を頼ることになった
父が所属するジムには若手の有望株ジョシュア(ブボイ・ビラール)がいて、彼は6戦6勝と破竹の勢いに乗っていた
ジムのオーナー・タマゴン(ルー・ベローソ)もトレーナーのシシ(モン・コンフィアード)も彼に付きっきりで、英次はそれでも良いと考えていた
桃子はシシの妻・アナリン(レスリー・リナ)が面倒を見ている寮に住まわせてもらうことになったが、早々に住居を見つけようとしていた
だが、地元の不動産屋に金を騙し取られてしまって、やむなく父の部屋に居候することになったのである
物語は、ボクシングに固執しつつも試合には積極的ではない父を描き、娘とのギクシャクした関係を静かに描いていく
何も起こらない日常系であるものの、娘との再会は英次を突き動かしていくことになる
タイトルが示すように「自分の居場所は自分で作るしかない」のだが、それは未成年の桃子も同じだった
彼女もアナリンとその娘たちからタガログ語を学び、父のそばにいることを選択する
そして英次は、試合を経てボクシングとの距離を再確認する、という流れになっていた
映画の中盤にて、ジョシュアが試合で大敗し、それによって戦意を喪失して田舎に帰ってしまうのだが、英次も桃子も彼の居場所はリングだと感じていた
彼が英次の試合を見ることで燻っていたものがクリアになり、桃子もまた父親の本当の姿を思い出す
そうした先にある未来というものは、彼らの居場所を作り出すことになるのだが、その場所はそれまでいた場所とはさほど変わらない
ただ、視点が変わったことで、それまでの単なる場所が居場所になった、ということなのだろう
いずれにせよ、人生の転換期を向ける中で決断をする物語で、好きなことと世の中に求められているものの違いがよくわかる内容だったと思う
英次のマインドが当初から同じであれば、ボクシングの結果も違うものになったと思うし、それがジョシュアに伝わればOKなのかなとも思う
家族に見せる背中はそれぞれだけれど、不器用な英次にはこれしかない
だが、例え生きる場所が変わったとしても、彼の背中は変わらないと思うので、そう言った意味において、最後の試合には大きな意味があったのだと感じた