「終盤に2人が並んで会話する長回し場面に、「好き」の微妙なグラデーションをたっぷり、みずみずしく見せてくれました。さすがは恋愛映画の旗手の一人今泉監督!」映画 からかい上手の高木さん 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
終盤に2人が並んで会話する長回し場面に、「好き」の微妙なグラデーションをたっぷり、みずみずしく見せてくれました。さすがは恋愛映画の旗手の一人今泉監督!
アニメ版も話題を集めた山本崇一朗の人気コミック「からかい上手の高木さん」の10年後を、「愛がなんだ」「街の上で」の今泉力哉監督のメガホンで実写映画化したものです。
●ストーリー
とある島の中学校。隣の席になった女の子・高木さん(永野芽郁)にいつもからかわれている男の子・西片(高橋文哉)は、どうにかしてからかい返そうとさまざまな策を練るも、彼女に見破られて失敗ばかりしていました。そんな2人の関係はずっと続くと思っていたが、高木さんがある理由からパリへ引っ越すことになり、心に秘めた互いへの思いを伝えることなく2人は離ればなれになってしまうのです。それから10年が過ぎたある日、「西片、ただいま。」母校で体育教師として奮闘する西片の前に、高木さんが教育実習生として突然、現れます。
10年ぶりに再会した二人の、止まっていた時間と、止まっていた「からかい」の日々が、再び動き出します。
●解説
思わせぶりな中学生の恋愛ギャグマンガだった原作の、10年後という設定が意外です。 島のゆったりとした自然と時間の流れ、穏やかな空気感が、人物の表情や会話、街や海辺のすべてにいきわたっていました。ロケ地の香川・小豆島が陰の主役と言ってもいいほどです。
25歳なった西片は、相も変わらず鈍感で、優柔不断で、純情すぎます。そんな西片に、10年ぶりに再会した高木さんは、からかうことを辞めませんでした。端で見ていると、もうお互い顔には相手が好きなんだと書いているのに、気づかないというか、西片に至っては、気づくことじたいを怖がっているようさえ見えたのです。実は高木さん、劇中でとある教え子から西片先生をなんてぜからかうのかと聞かれて、実は好きなんだとあっさり打ち明けるのです。からかいは高木さんにとっての愛情表現だったのです。そんな「好き」という気持を西片に送り続けてきたのに、ヤツはちっとも気がつかない!とため息交じりに漏らします。だったらなんで高木さんの方から、告らなかったのかと疑問に思えました。このふたり中学時代から10年後の今日まで、恋するところまであと1秒という思わせぶりな関係をずっと続けてきたのです。
「好き」を伝えること、片思い、人が分かりあうことを、純度高くほほえましいほどにシンプルかつ素直に映し出します。愛の形は無数にあれど、時には身構えずにのんびりとした気持ちでクスッとしながら味わうのもいいものです。終盤の長回しは見ている側が照れるほど笑ってしまいました。
西片の純情ぶりが幼すぎとも思わえましたが、さすが新世代の恋愛映画の旗手である今泉監督です。終盤に2人が並んで会話する長回し場面に、「好き」の微妙なグラデーションをたっぷり、みずみずしく見せてくれました。これなら原作ファンにも新鮮ではないでしょうか。
そして終盤に西片が突然語り出す言葉にはビックリしました。ふたりの関係が大きく変わるものだったのです。
西片が担当している不登校の教え子町田涼(齋藤潤)と町田を慕うクラスメートの大関みき(白鳥玉季)、そのほか職員室の同僚らの絡み具合もほどよく、キャスティングの妙もさえています。特に教頭の田辺先生役は、江口洋介がふたりの若い教師の相談相手として、いい味を出していました。過ぎ去った青春を懐かしむ世代にもお薦めします。