「偉人たちの無駄遣い」もしも徳川家康が総理大臣になったら tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
偉人たちの無駄遣い
これだけの俳優を集めて、これだけの歴史上の偉人たちを演じさせている割には、今一つハジけない。
せっかくの偉人内閣なのだから、それぞれの実際の功績や偉業を反映させたユニークな政策が打ち出されるのだろうと期待したのだが、どれも、ありきたりな政策ばかりで、見掛け倒しだと言わざるを得ない。肝心の徳川家康に至っては、何も政策を打ち出していないようにも見受けられ、内閣を取りまとめるのが仕事だとは言っても、もう少し、政治家としての手腕を発揮してもらいたかったと思ってしまった。
いくらコロナ禍という緊急事態を乗り切るためとはいえ、強権を発動して、強引に政策を進めれば良いといった政治の描き方にも疑問が残る。
さらに、後半は、内閣総理大臣の座を巡る陰謀の話になってしまって、いよいよ何を見せられているのかが分からなくなってくる。
この陰謀に関係するのは、信長、秀吉、家康の他に、龍馬と三成ぐらいで、他の偉人たちが、完全にモブキャラ扱いになっているのも、もったいない。
どうせ陰謀を阻止するのであれば、すべての偉人たちに、それぞれの個性や特徴を活かした見せ場を作れなかったものかと、残念に思ってしまった。
ラストの、家康と秀吉が対峙する場面は、民主主義と独裁制の優劣を巡る論争であると解釈することができるのだが、民主主義を擁護するために家康が説いた「人に頼るな」とか「自分に期待しろ」とかといった抽象的な言葉が、今一つ心に響かなかったのは、私だけだろうか?
それどころか、「話し合いばかりで何も進まない」と言って民主主義を否定する秀吉の主張にこそ、まさにコロナ禍を迅速に乗り切った彼ならではの説得力が感じられるのである。
この映画が、本当に、民主主義の素晴らしさを伝えたかったのであれば、前半のコロナ対策の描き方そのものが間違っていたのではないかと思えてならない。