「小さな町のほんの僅かな時間の物語」クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 aoironomeganeさんの映画レビュー(感想・評価)
小さな町のほんの僅かな時間の物語
この物語の4時間は、そのほとんどが些細でだれにでもある日常を切り取っている。だから、だれにでも共感できることもあるが、生きた時代のせいで如何様にも人生そのものが変わってしまうことを示唆しているとも感じた。
★これからこの作品を見る方は、ぜひ1950年代の中国・台湾の歴史(政治・教育)をすこしでもいいので下地として理解しておくといいかと思います。★
それは、とても小さな町の中で起きた、ほんの僅かなあっという間の時間の中にあるロードムービーのような少年の人生の物語。
冒頭のシーンから、少年の人生に影響しないものはないと言っているようなありきたりな日常が映し出され、延々繰り返されるわずかな変化の中の日常や、どこにでもあるケンカやデートやお祭りやイベントやすこしアングラな時間が、時代のせいか大きな罪を生んでいく。
その中で生きていく少年は、様々な人と接点を持ちながら、自分とはなにかを考えていく。そして見出した彼女への想い。しかし、それは儚く、無残に鋭く切られる薄く脆い紙きれのような気持ちだったのか、それとも彼女のほんのすこし大人な想いが、少年を苦しめたのか。
だれにでもそんなようなことが起き、誰もが通り過ぎてきた気がするささやかなシーンだが、大きく人生を変化させてしまうこともあると感じたし、自分自身も少なからずその傷を負いながらこれまで来ていることも思い起こさせてくれた。
本作品は、時代背景が分からないと置いてけぼりになりやすい。それでも少年少女の感覚などは、懐かしさを感じつつ見ていられた。
少年が恋する彼女は、作中も魅力的な女性として描かれるが、見ていてもやはり魅力的な女の子だなと思った。それは、可愛らしいという一面的な描き方ではなく、どこか儚く見えるところ、素直でまじめなところ、時として妖艶なところ、大人びた発言や可哀そうな感じもあれば、元気で陽気な面もあり、多面的な描き方をしている。それは、誰かに見せるときに変えているとこもあれば、時として変わってしまうところやそうせざるを得ないときもあったりだが、しかしそれは彼女にすべてある本当の姿でもある。だからこそ、少年は自分の想いに耐え切れなかったのかもしれない。多面的な彼女の演技と監督の手腕はとても素晴らしい。
称賛されるに値する映画で、見れてよかった。