ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディのレビュー・感想・評価
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アメリカにとっての70年代は空白の時代か
1970年の暮れ
全寮制の男子校「バートン高」ではクリスマス休暇を目前にして
生徒たちは皆浮かれ気味。
これから先の二週間、家族の元へ帰る者、
家族と旅行へ行く者と、楽しみは尽きない。
が、その中に
家庭の都合で寄宿舎に留まることになってしまった
浮かない顔の生徒が数名。
ただその後に家族の迎えもあり、
生徒として残ったのは『アンガス(ドミニク・セッサ)』がたった一人。
監守役を押し付けられた
古代史教師の『ポール(ポール・ジアマッティ)』、
同校卒業の息子をベトナム戦争で亡くしたばかりで
住み込みで働く料理長の『メアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)』と
三人だけの長い年末・年始が始まる。
『ポール』は、病気による独特の体臭と斜視の外見、
容赦ない成績評価もあり、生徒からは蛇蝎の如く嫌われ
同僚からもこころよく思われてはいない。
それでも、自身の母校でもある「バートン高」に対する想いは人一倍、
生徒達の人間としての成長のために心を砕く。
『アンガス』は、頭は切れ成績も悪くはないものの、
特殊な家庭事情もあり、性格面に問題が。
とりわけ宜しくない素行で、転校や落第も経験している。
『メアリー』も含めたクセのある三人だが
閉鎖空間で時間を過ごすうちに
次第に心を開く。
わけても『アンガス』と『ポール』は
相手の過去に何があったのかを知るにつれ、
互いに深い共感を抱くように。
既視感はあるものの、
印象的な数々のエピソード、
伏線と意外な回収、
小道具の使用、
そして洒脱な会話、と
脚本の練り込みが素晴らしい。
とりわけ休暇中の監督規則を都合よく解釈し、
古びた車でボストンまで長駆、
そこで起こる幾つもの事件が二人の結びつきをより強固にし
万感の思いが込み上げる最後のシークエンスに繋げる。
上っ面な親子関係よりも
肝胆相照らした他人の方が
よほど思いやりの気持ちが強くなる。
帰結としての自己犠牲は
やや優等生に過ぎるきらいはありつつ。
本編前の「Universal」のオープニングロゴからも
1970年代の香りがぷんぷんと感じられ、
オープニングクレジット、
エンドロールの形式も同様で、
物語世界のみならず全体のパッケージングから
観客を往時に連れ戻そうとの強い意図があるよう。
我々にはうかがい知れぬ部分も多いが、
米国に住む人々には、どのような記憶ともにあるのだろう。
ぜーんぶ良かった! ぜーんぶ好きだった!!!
70年代、寄宿舎のクリスマス休暇、
風景、音楽、衣装、ストーリー、俳優たち、その他いろいろ
ぜーんぶ良かった!
ぜーんぶ好きだった!!!
とくに、音楽がめちゃくちゃ良かったなー。
ウキウキしたり、センチメンタルになったり、
シーンごとにバッチリとハマってて、心地良かった~♪
サントラ買わなきゃっ!
ハナムも、メアリーも、タリーも、
少しの欠点とたくさんの美点が、とても魅力的で愛らしい。
ラストも、若いタリーの未来のための、
ハナムの行動も強くてステキだった。
こんな男気の彼の未来も、きっとステキなはず!
長編本を出版したりしてね~。
ハナムが、ちょいちょい良いこと言ってたけど、
なぜか残っているのが、
『99%の摩擦と1%の好意』
これ、ちょっと面白かったなー 笑
タリー役のドミニク・セッサ
完璧な格好良さではない不思議な魅力のある俳優さん、
今後の作品が気になるー。
大人の役割を考えさせられる
置いてけぼりになった3人が共同生活をする中で、それまで知らなかった互いの良さに気づいていたり、悩みを共有していくというような流れですが、個人的にはポール先生の生き様に興味を惹かれました。
ポール先生はしょっちゅう「嘘をつくな」と教えていたのに、久しぶりに過去の同僚と会った時には自分の経歴を偽り、誇張して伝えてしまう。
そこを教え子のアンガスに問われて、開き直りながらも、過去にあった事実と現在の経緯を正直に話す。
ポール先生は理不尽な目に会った時に、見て見ぬふりをして流すことができず、自分の正義を貫いてしまう人で、それが原因で現在も冷遇されている。
物語の後半にアンガスは理解はできるが勝手な行動をしてしまい、両親を怒らせて退学のピンチを迎えるが、その時にポール先生は事実とは違う事を言って、自分が罪を被り退職してしまう。
ポール先生の正義は、事実か嘘かよりも、正しいと信じる行動を取ることなんでしょう。
アンガスはクリスマスに父親に会うという当たり前の正しい行動をして、それが罪に問われてしまった場合、先生は嘘をついてでも生徒の将来を守るという事が、ポール先生の正義だったのだと思う。
退職したポール先生はどこかに去ってしまい、明るい展望は見えないまま映画は終わってしまうが、教え子のアンガスの未来は守られたし、人間として大切なものを受け取った。
これで良かったのだと思える大人になりたいです。
なぜ歴史教育をするのかという疑問に対する答えとしての真摯な教師の姿を描いた作品です。
学生の頃、東京の学生寮に入っていた。年末年始は基本的に寮は閉鎖されるのだが事情があれば居残ることはできた(食事は出ない)例年、かなりの人数が居残っていて、年末年始はバイトの給料が良いとか理由をつけていたけどやっぱり帰省費用を出せないというのがホントウのところだっただろう。我々は「越冬する」と言っていて残るもののことは「越冬隊」と呼んでいた。もちろんがらんとした寮に数人で取り残されるのは寂しいのだが、なにか奇妙な開放感と残るもの同士の連帯感があったことをこの映画で思い出した。
さて、映画はこの越冬隊の3人(途中までは7人だった。掃除夫のダニーがなぜ数に入らないかはよくわからない。通いか?)ハナム先生と学生のアンガス、料理人のメアリーのそれぞれの事情と連帯感が描かれる(ことになっている)しかし、3人の連帯という意味では割と淡々と映画は進みそれほどエモーショナルに盛り上がらない。そのあたりを物足りなく感じる向きはあったようだ。
私はむしろ、この映画は、ハナム先生が歴史教師として、そして子供たちの指導教官として戦い、そして敗れて学校を去るまでの物語として受け止めた。「チップス先生さようなら」や「いまを生きる」のような教師ものなのである。
ポール・ハナムは古代文明の教師である。古代文明っていうと何か「ムー」っぽいのだが要はギリシャ・ローマ史を教えていることになる。歴史教師というものは昔も今も、例えばペロポネソス戦争のことを覚えて何か得られるのか、という生徒や周囲からの疑問に接することになる。
歴史のテキストはテキストでしかなく、そこから未来に繋がる叡智を読み取ることができるというのはおそらくウソである。テキストは延々と教師と生徒という関係の中で教え、教えられてきた。テキストをリズミカルな言葉で伝えその豊潤な世界観と詩情を表現するのが教師であり、それを的確な洞察力で受け止めるのが生徒である。おそらくこの関係性自体に意味があるのであって、真摯に生徒に対することができる教師は、人生の教師としても多分、優秀なのである。
この映画は、歴史教師であるハナム先生が、真摯に生徒や生徒以外の人たちに接して、そして世俗や、もっと端的にいうと金満主義に敗れて学校を去るところを描く。でも、アンガスは学校に残り、ひょっとしたらメアリーの妹の子(ティモシーというミドルネーム)もいずれはこの学校に入ってくるかもしれない。教育というものは永遠に続いていくものであるということを微かに希望として提示して映画は終わる。
人生捨てたもんじゃない!
名門バートン校の寄宿舎でそれぞれ苦悩を抱えながら生きている3人が、クリスマス休暇中に置いてきぼりで一緒に過ごす事になり、いつしか相手を思いやり絆が生まれて行く。3人ともとても個性的でいい味出している。仲間に入れてもらって、ソフアーに腰掛け、TV見ながら一緒にお酒飲みたいなーなんて気分になる。アンガスは見た目も良いけど、性格も良いな。いろいろあって、やんちゃで生意気だけど、心根はとても優しい。おねしょのシーツもそうだし、ハナム先生が困らない様に庇うところも‥今は辛くても、幼い頃に父親と母親?の愛情をたっぷり受けて育ったんだと思う。そうじゃないと、あの若さであんなに人の気持ちを思いやる人間には中々なれないよ。久しぶりに、素敵な映画を観る喜びと幸せ感じたわ❣️。いい一日だった。
会話劇のバッググランドを理解して観たい映画
またまた高評価の嵐であったため、前知識なく挑戦。
序盤の展開がパッと見はスゴい地味なんですよね。70年代の男子校の中での、人間のやりとり。こっちから積極的に理解をしにいかないと、「面白い」と感じにくいんですよね。前半は(観る側の問題なのですが)ウトウトしながら鑑賞してしまい、人物の人間性なりバックボーンなりを理解せずすぎてしまいました。
中盤以降、分かりやすい場面展開で物語が進むのですが、それぞれの「事情」が段々と分かってくることで、映画の厚みを、理解できます。
ラストの先生と彼との握手のシーンは名シーンですね。目頭が熱くなります。
70年代のアメリカの黒歴史(主にベトナム戦争)という背景をちゃんと理解して観るべき映画でした。
口コミでロングランになりそうな良作
受賞歴も知らずストーリーも地味だけど個人的に縁がある部分があったので見に行ったら平日なのに結構埋まっていてびっくり
ミニシアター系の佳作はたまに出会うけど、この作品はクスッと笑えるところが多く(実際声を出して笑っていた人も何人かいた)最後ほっこり終わるかと思いきや斜め上のエンディングも良かった
日本に配給してくれた会社あっぱれ!と思ったらオッペンハイマーやPERFECT DAY S、パラサイトも配給している会社でなるほどね
通り一遍ではない良い映画が見たい方におすすめです
Bon voyage
ダヴァイン・ジョイ・ランドルフさんがアカデミー賞で最優秀助演女優賞を受賞した事だけを頭に入れての鑑賞。
どんな作品かはあらすじでフワッと触れたレベルで、そういえば予告とか全く観なかったなーと思っていたり。
これはダークホースだ…!想像以上に面白く、自然に感動できる作品になっており、観終わったあとにとってもほっこりできる理想的なクリスマス&年末映画でした。
斜視の症状を持つ教師のハナム先生と、ママが新しい夫とバカンスに行くがために学校に残れと言われたアンガスと、息子を亡くしている学校の料理担当のメアリーの3人で繰り広げられるなんて事ない休暇に色を付けていく物語で、最初はソリの合わない感じだったのに、互いの心情や行動について理解を含めていくと、どんどん相手を大切に思うようになっていく構成が本当素晴らしくずーっとトキメキながら観ていました。
最初こそ5人の居残り生徒がいたものの、途中でヘリで迎えにきてくれて4人は戻れるのに、アンガスのママは連絡がつかないというなんたる奔放っぷりに憤りを感じましたが、結果的に3人の距離を近づけるきっかけになっていく展開はエモかったです。
アンガスが年相応にハナムを振り回す中で、体育館のジャンプ台から思いっきり飛んでからの脱臼で大慌てのハナムが病院へと連れていく過程でグッと関係性が近くなって、痛々しいところですがフフッと笑える構図になっていたのも良かったです。
メアリーとお酒を飲んだり、恋愛ショーを見てキャッキャッウフフしていたのも微笑ましく、その中で体臭について指摘されて、ウッとなっていたのも良かったです。
ボストンに行ってからはガラッと流れが動き出して、親子のようにキャッキャッするハナムとアンガスがとても良いですし、メアリーが妹宅でまったりしてるのも良いですし、旧友と出会った時に嘘をついたハナムをアンガスがフォローしてくれたり、ジムビームを買う時に武勇伝をワッハッハと語っていたら店主に殺人犯と蔑まれたりと、笑いどころも多く含まれていて最高でした。
アンガスの真の目的は父親に会いにいく事で、最初こそ事情を説明しないアンガスを引き留めたハナムだったけれど、事情が分かってからは二つ返事で介護施設にいる父親への元へ向かい、再会を見届けるというのもわだかまりの解消ができていてとても沁みました。
この災害により、父親が元の家へと戻れる希望を持ってしまったがために不安定になってしまい、元嫁に違う施設に送られるという事情は分からんでもないけれど…もう少し責任持とうぜ…と元嫁に憤りを感じるくらいには感情移入していました。
クリスマスのレストランでは、お酒の入ってるスイーツは提供できない、いやしてくれの押し問答が面白く、ならばアイスとチェリーを持ち帰って、ジムビールをかけてなんちゃってスイーツに火をつけて燃えまくって友達のように笑い合っていて微笑ましかったです(はよ消化しないとヤバいことにはなりますが笑)。
ラストシーンもこれまた良くて、結果的には学校を追い出されてしまうハナム先生の元に全力疾走でやってくるアンガスが軽口を叩いて、熱い握手をしての別れが物悲しいはずなのに、どこか前向きになれる感じで良く、THE・恩人なハナム先生と自分も握手したくなりました。
空気を重くしないためにこっちの目を見て話してくれよと呟いたりしてほぐしてくれるのも良かったです。
役者陣もこれまた素晴らしく、特にアンガス役のドミニク・サッセ君は学校で行われたオーディションで選ばれたとのことなので、ほんまに良い子連れてきたわ〜と拍手したくなりました。
音楽も70年代の緩やかな感じが素敵で、背景のインテリアも部屋に飾りたくなるくらいオシャレでとても好みでしたし、街並みもこれまた美しいもんですから、どのシーンを切り取っても良いな〜という感動がありました。
夏場だけどクリスマス映画ってのも良いな〜となりました。
きっと今年のクリスマスのお供になる作品だと思います。上半期滑り込みで傑作キター!
鑑賞日 6/26
鑑賞時間 16:05〜18:25
座席 E-10
「新たな金字塔が誕生」という大袈裟なフレコミはウソじゃなかった!
本当にイイ映画って、なぜか最初の10分くらいで勘付くのですが、この作品がまさにソレ。
愛すべきキャスト達から出てくる台詞が粋でウィットに富み、刺激的で、優しく、あったか〜い。
季節外れですが、寂しいクリスマスを過ごした経験
大人ならありますよねっ
本作は「素晴らしき哉、人生」「ホームアローン」と並ぶクリスマス映画の金字塔であり
「チップス先生さようなら」「いまを生きる」と並ぶ
全寮制寄宿舎モノの金字塔です。
取り残された人たち
レクサンダー・ペインの新作ということで期待して見に行った。
相変わらずうまいなーと舌を巻く。役者も良かったけど、特に脚本の質はピカイチ。
人が描けてるし、細かい描写や設定など、いちいち心に引っ掛かる。人の心の深いところにあって決して癒えることのない傷が、ときに鋭く、ときに重く、ズキズキと痛む。
ひとそれぞれに自分自身の境遇を照らし合わせてしまうところがあるのではないか。
私自身も愛のない機能不全家族で育っているので、クリスマスとかお正月とか嫌いだし、ひとり孤独に取り残される(ホールドオーバー)される感はよくわかる。
結局
最初は全然タイプの違う2人な感じですが、結局、よく似てるのかあ?って言う感じでしたね。気持ち的に互いをかばいあう関係にまでなったのは、やはり置いてけぼりになった短くも濃厚な期間があり、互いを理解できたからですね。
堅物教師が変わっていくのはいいけど
2024年劇場鑑賞155本目。
映画の冒頭が古いバージョンの配給ロゴを使っていて、あれ、これリバイバル?と思いましたが新作のようです。
時代なんでしょう、生徒の前でもタバコを吸いまくるのは嫌だなと思い、そういう人が何を言っても響かないのですが、ポール・ジアマッティの教師はどんどん理解のあるいい先生になっていくので、そこは見ていて楽しかったです。最後もうちょっと話の持っていき方で避けられたラストだとは思いましたが。
寄宿学校という空間
米映画で寄宿学校といえば
「いまを生きる」「セント・オブ・ウーマン」そして本作。
共通点はいずれもオスカーノミネートされた傑作。
本作は過去作と比べても「悲壮感」「孤独感」が強い気がする。それはエリート校じゃないからか、主人公たちの境遇が悲惨だからか。
でもそんな彼らが「存在価値」というか「自己肯定感」を取り戻す姿が良い感じ。
ペイン監督作は、(客観的に見れば)悲惨な主人公たちを、笑いと滑稽さとドラマを上手いバランス感覚で見せることが出来る稀有な才能の持ち主だと思う。
それは本作でも生きていて、どん底の彼らを応援しながら見ちゃうんだよね。
アントルヌー《我々だけの話》
楽しみにしていた作品だったのですが、そのぶん拍子抜けしてしまったかも。
まず、居残り組を二段階に分けた意味が分からない。
もちろん、それによりアンガスの孤独感がより強まる側面はある。
でも、300人が一気にいなくなる方が画面的な印象は強いし、テンポもよかったと思う。
残りの4人が後半に効いてるとも思えないし。
また、派手なイベントが必要とも思わないが、地味すぎる上に繋がりを感じなかった。
リディアの姪とのキスとか、一体なんだったのか。
ってか、ボーリング場とかでもアンガス、やたらとモテてないですか?(クソゥ
それより何より、アンガスが父に会いに行く場面ではちゃんとポールに相談してほしかった。
あの段階に到ってもまだ信頼築けてないのか、と。
事前情報では3人の話っぽいが、メアリー成分は薄め。
言ってみればひたすらルート弾きしてるベースのような立ち位置で、それはそれでいいのだけど…
パーティでやさぐれたり、妹の家に行ったり、変なとこで強めに主張してくるのでバランスが悪い。
最初からポールとアンガスに絞った方がよかった。
最後にアンガスを庇ってクビになるのは定番だが、イマイチ響かなかった。
途中で無駄打ちせずに、ここで初めてポールがウソを吐く流れにするべきだったのでは。
クソ親は何も変わらないし、なんだかスッキリせず。
アンガスが脱臼するシーンなんかは面白かったし、チェリージュビリーの一連の流れは好き。
陰茎癌
男は怒りで人生を迷い、この学舎の澱みに漂い、その一瞬が訪れるのをただ待っていたのかもしれない。グラントリノを想起させるような人生観。死に場所が与えられるならばそれは幸いなのかもしれない。
全然イケていない表現が実にいやらしいアレクサンダーペイン。それを愛おしく思わせる巧みさ。こんなバディーは見たことない。
まったくバタ臭くないラスト。ピュッと吐きだすウィスキー。まだ生きていける。自省録でも読んでみよう。
学級崩壊から始まる人情噺
まずは題名から。ホールドオーバー=holdoverとは、”留任者”とか”残留者”、”残っている人”という意味だそうです。落語に「居残り佐平治」という古典の演目がありますが、英訳すると「The Holdover "Saheiji"」というところになるのでしょうか。「居残り佐平治」で言うところの”居残り”とは、遊郭で金を払えずにそのまま拘束されてしまうという意味であり、計画的に”居残り”をして廓に拘束された佐平治が、幇間の真似をして客から祝儀を貰うという、滑稽で面白おかしい”廓話”でした。
一方本作は、時はベトナム戦争当時、1970年末のクリスマス前後の時期の半月ばかりのお話で、場所はボストン郊外にある全寮制の寄宿学校・バートン校を舞台に、クリスマス休暇で殆どの生徒が家に帰ったり旅行に行ったりする中、家庭の事情で”居残り”をする羽目になったタリーと、彼の監督をするためにやはり”居残り”となった嫌われ者の教師ハナム、そして彼らに食事を給仕する給食担当メアリーの3人の、実にハートウォーミングな”人情噺”でした。
三者三様に複雑な家庭の事情や暗い過去を抱えた彼らでしたが、タリーは手が付けられないような悪ガキだし、ハナムもアカハラ要素たっぷりの教師で、通常の授業が行われている時も全くソリは合っていない感じでした。特に”居残り”になってからはその対立関係がより先鋭に。でも最愛の息子(彼もバートン校の卒業生だった)をベトナム戦争で亡くしたばかりのメアリーの不思議な求心力により、徐々に相互理解が生まれてくる展開に。
一番良かったのが、お互いに包み隠さない本音をぶつけ合うことで、ショックを受けつつも徐々にお互いを人間として認めていく過程でした。特にハナムの強情とも言える生徒に対する厳しい態度が、実は彼自身の学生時代の出来事に由来したものであり、それを聞くとこちらも納得すると同時に、彼への共感が生まれました。たまたま出会った学生時代の友人に嘘を吐く虚栄心も、彼の人間らしさを十二分に表現したエピソードだったと思います。そして既に信頼関係が生まれていたタリーも、調子を合わせてハナムをサポートするあたり、もはや擬似的な親子関係になっていたように見えました。
最後は退学寸前の擬似息子・タリーを、自分の人生にとって最も大切な教職を投げうって助ける擬似父・ハナムのカッコ良さは、実に清々しくかつ感動的なものでした。
今年の米国アカデミー賞作品賞のノミネート作品であり、メアリー役のダバイン・ジョイ・ランドルフは助演女優賞を受賞しただけあって、すこぶる前評判も高かった本作でしたが、期待を遥かに上回る良作でした。
そんな訳で、本作の評価は★4.5とします。
孤独を抱えた者たちの温かなholiday。
寄宿学校に通う子どもたちはクリスマスを家族と過ごすために各々家族の元に帰っていく。そんな中家族と過ごせない事情を持つ数人の生徒と、寄宿学校で最も嫌われ者の教師が寄宿舎に残ることに……。
それぞれの持つ課題や過去の確執、トラウマを乗り越えながら成長していく姿を温かく描いている。
生真面目で皮肉屋、学生や同僚からも嫌われている教師ポール、息子をベトナム戦争で亡くしたメアリー、精神病の父との別れと母の再婚に振り回される生徒……。悩みや問題を抱えた3人が2週間、家族のように支え合い寄り添うことで、新たな希望と変化が起こる。
メアリー演じる女優さんの演技が素晴らしかった。
日本では季節外れな時に上映されているけれど、クリスマス前後に大切な人と観たい映画の一つです。
全233件中、141~160件目を表示