劇場公開日 2024年6月21日

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「悲しい者同士、弱い者同士の、不思議な連帯感。」ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ ソビエト蓮舫さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5悲しい者同士、弱い者同士の、不思議な連帯感。

2025年5月2日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

幸せ

昔、ニコニコ生放送のレジェンド配信者に「ウナちゃんマン」と呼ばれる、有名なオジサンがいた。
「KP(ケーピー)」という、若者が使う流行語にもなった、
乾杯を意味する言葉を、最初に使った人物と言われている。

彼は生まれつき「ロンパリ(斜視)」で、上半身裸の様相で座り、大好物の発泡酒を飲みながら、
他の配信者の悪口ばかり言う「皮肉屋」で、
ペットの犬が、彼のワキを嗅いで気絶する「体臭」動画がバズり、
海外ニュースで取り上げられた事もある。

ウナちゃんマンは、みんなから嫌われており、
過去に悪いことをして捕まった経歴もある前科者でもあり、
現在進行形で悪口ばかり言うものだから、本名が佐野という名前もあって、
何かニコ生で事件や事故が起こると、

「全部、佐野が悪い」

と、責任を擦り付けられることもあった。
人間の悪行、原罪、業みたいな者を背負う者として見られていた節もあり、
「嫌われ者」でありながらも、一部視聴者からは、神様のように崇められるカリスマ性もあり、
「孤独」の象徴として、配信画面に鎮座していたのだ。

こうしたウナちゃんマンの、
「斜視」
「皮肉屋」
「体臭」
「嫌われ者」
「孤独」
の要素を兼ね備えた人物が、この映画の中にも登場する。
それが、ポール・ジアマッティ演じる、教師のポール・ハナムだ。

ポール教師が出てきた時、あ~これは、ウナちゃんマンにそっくりな奴だなと瞬時に思った。
ただ、ポールとウナちゃんマンとで決定的に違うのは、
生真面目で、堅物で、融通が利かないところ。
嫌われ具合はそっくりだけれども。

彼が勤める全寮制の名門エリート高校「バートン校」の生徒たちは、他の学校と同じく、
クリスマスになると皆、自宅に帰り、家族と共に過ごす。
ところが、訳アリ事情で、家族とどうしても過ごせない学生が、毎年何人かは生じる。

その何人かのうち、問題児扱いされている生徒、アンガスだけが学校に取り残され、
問題児アンガスと堅物教師ポール、
そして、ベトナム戦争で息子を失った黒人料理長メアリーとの3人で、
クリスマスを含む年末年始を過ごす事になった、というお話。

映画の冒頭から、バートンの学生連中がこぞって、生意気でちょーしに乗っているもんだから、
いつものように、私が個人的な好き嫌いとして、
生理的に受け付けない「海外の思春期世代の鬱陶しさ」を感じ、早くも鑑賞脱落しかかるが、
残された3人だけの、奇妙な「疑似家族」的構図になってからは、没入感も感情移入もグッと深まり、
尻上がり的に、物語へ深く入り込む感覚があって、段々と面白くなってきた。

嫌われる要素しかない男2人と、マイペースで常に場に馴染んでいない女1人の、
それぞれの内面性や複雑な事情が、徐々に露わになるにつれ、心通わせるうちに、
悲しい者同士、弱い者同士の、不思議な連帯感と、優しい感情が芽生えてくるのだ。

堅物で、信念や規律やルールを重んじるポールも、次第に柔軟な態度になり、
3人でルールを破って学校を飛び出し、小旅行へ出かける。

その小旅行で生徒アンガスが、とある単独行動をしたために、
退学のピンチに陥るのだが、
それを教師ポールが、自身の立場を投げうってアンガスを助ける。
教師ポールが、序盤では想像もつかない「自己犠牲」によって、
生徒を救おうとする姿勢に、涙が出てきた。

なにかこう、心と心の触れ合いというか、魂と魂の呼応とでも言うべき関係構築により、
堅物だったポールの、カチコチだった心が凝りほぐされる感じが、とても良かった。

そういえば、、、
「おまえらは、どうして俺の配信なんか見てるんだい?」と、
ウナちゃんマンが視聴者に問いかけた事があった。

「ココはな、ニコ生の底の底なんだよ。普通に過ごしてたら俺の放送なんか見ない。弾かれに弾かれた末、辿り着いたのさ。」

ウナちゃんマンに散々悪口やら誹謗中傷やらのコメントを書き込んで、
「は~い、NG。」と、何十回NGコメント牢屋にぶち込まれたことだろう。
アンガスがポールに救われたように、私もウナちゃんマンに救われていたのかもしれない。

もうウナちゃんマンはこの世にいない。
カチコチの心を凝りほぐしてくれる人は、もうこの世にはいないのだ。
そう思ったら、涙が止まらなかった。
魂と魂が通じ合える人なんて、この先、あと何人と出会えるのだろうか。
もう、そんな人は出てこないかもしれない。

ソビエト蓮舫
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