劇場公開日 2024年6月21日

「アメリカンヒューマニズムの良作」ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ コショワイさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アメリカンヒューマニズムの良作

2024年7月21日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

1 年末休暇を寄宿学校で過ごす生徒と教師たちの人間関係の機微を描く。

2 1970年の年末。名門の私立高校が舞台。家庭の事情などで帰省せず学校にとどまる生徒たちがいた。そのお守りに一人の偏屈な教師ハナムと同校OBの息子がベトナムで戦死したばかりの調理場責任者メアリーが残った。面白みのない日々に嫌気がさしていた生徒たちはスキー旅行に出かけることになったが、一人の生徒アンガスは親と連絡が取れず残った。クリスマスを校内で過ごした三人は社会見学と称して、校外に出た。そこで、アンガスはある場所に行きたいとに伝えた、そして・・・。

3 本作では、個人的な悲しみや怒りを抱え、自分ファーストであったハナムとアンガスが、行動を共にするにつれて、心の内を吐露しあい、そしてハナムが自己を捨ててアンガスの才能を活かそうとした姿にアメリカ固有の隣人愛や家父長的な愛に基づくヒューマニズムを感じた。ハナムはさっぱりした顔つきで、校舎を後にし、アンガスは和らいだ表情で校舎に戻って行ったラストショットは印象的であった。

4 一方、メアリーには、心中の大きな悲しみと天使のような慈愛を感じた。息子が死んで独り身となった辛さだけではなく、除隊後の優遇措置を使って大学進学を目指すため入隊させてしまった親としての力のなさや後悔が滲んでいた。そして、恐らく孫用のベビー肌着や靴を生まれ来る甥か姪のために譲ることで思いを託そうとしていた。その中で校内に残ったメアリーは、ハナムに寄り添い、アンガスのために家庭的なクリスマスディナーを用意するとともに二人の仲介役となった。

5 本筋とは関係ないが、現場となった木造校舎の佇まいが荘厳かつ凛として素敵だった。また、当時の時代感を上手く再現していた。

コショワイ