「素晴らしかった」ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ 吉泉知彦さんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしかった
映像の質感が、アメリカンニューシネマの時代そのもので、当時作られた幻の名作が発掘されました、と言われたら信じてしまう。『スケアクロウ』と同時上映されていても違和感がない。
はぐれ者の教師と生徒と給食のおばちゃんの3人が寄り添って年末年始を学校で過ごす。お互い仲がいいわけではなく、生徒と先生は決定的に仲が悪い。特にクリスマスは日本とは意味が違って、何がなんでも家族と過ごす重要な日だ。僕が若いころは彼女と過ごすのが当たり前だとされていて、一人で過ごすことがとても惨めに感じたものだけど、その何倍も彼らは心を苛まれていることだろう。
生徒の男の子が本当に世間知らずの甘ったれで、イライラする。彼が同級生と言い合いになるのだけど罵倒がすごい。イギリス映画かと思うほど口が悪い。
そうして過ごすうちにトラブルがあったりしてお互いに気心が知れていく。それがとても丁寧に描かれている。気心が知れすぎて、さらなるトラブルに発展して最終的に先生は職を失う。そんなにクビになるほどの失点ではないと思うが元々校長先生に嫌われていたので、これ幸いとクビにする口実にされたのかもしれない。
その先生がスケートリンクで大学の同級生と会って、つい見栄を張ってしまう場面が見ていて本当に心が苦しくなる。極力等身大であろうと心がけているのだけど、自分ももしあんなふうについ背伸びをしてしまったら、その後何日もベッドで眠れずに叫ぶことになる。
古本市で話しかける売春婦が絶妙で、ぱっと見ないわ~と思うのだけど話しているうちにもしかしてありかな、あれれ?みたいな感じだ。
一体なぜこんな映画を今の時代に作ろうとしたのか意図が分からない。他にも全体像として把握しきれていない感じがする。ただ、誰とも友達になりたいと思えなかったので、また見たい気持ちは今はあまりない。