「過去から現在・未来を見よと教えている」ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
過去から現在・未来を見よと教えている
定評のあるアレクサンダー・ペインの作品。
背景は1970年、米国東海岸の全寮制プレップ・スクール(進学予備学校)。日本で言う中学生と高校生が含まれているようだ。一クラスは15人程度で、大学進学を目標にしており、レベルは高そう。さぞかし莫大な学費を要し、学校も大型の寄付金でもなければ、とてもやっていけないだろう。全寮制の学校に入る生徒たちには、家庭あるいは本人に問題が多いことも容易に想像がつく。男子校とするためには、時代をさかのぼるしかなく、冒頭からスクラッチノイズが聞こえるなど、年代を暗示していた。
学校で、ギリシャ、ローマ以前の古代史を教えている教師ポールは、真面目で融通がきかず、生徒達からも、同僚からも疎まれている。一年中で、誰もが一番楽しみにしているクリスマス休暇の間、輪番制を無視して、学校を管理するよう依頼される。こうした背景を説明するのに時間が費やされ、やや退屈。始まって30分を過ぎた頃、学校に残るのは、生徒の一人アンガスと食事を作ってくれるチーフのメアリー、ポールの3人と判り、ようやく物語が動き出す。
三人になっても、ギクシャクした関係が続くが、あることをきっかけに、ポールとアンガスが接近する。似たもの同士であることがわかったようだ。明晰で怖いもの知らず、誰にでも自分の考えをはっきりと口にするメアリーのアドバイスもあり、三人でボストンに出かけることになる。もちろん、これは掟破り。そこでの出来事が二つあり、それがこの映画のメイン・トピックとなっていた。
ストーリーの上で気になったことが一つ、あとからアンガスの母親とその連れ合いが学校に乗り込んでくるが、ポールのハーバード時代の同級生であるべきだろうと思った。ただ、それだと全くポールの映画になってしまう。そこに脚本家の難しさがあったのだろう。この作品を書いた(製作にも名を連ねている)デビット・ヘミングソンは、第96回アカデミー賞にノミネートされている。
では、どこが見どころか、アンガスとの距離を縮めて行ったポールがentre nous (二人だけの秘密)と口にするところ。なんだか、旧制高校の学生と先生との会話のよう。彼の学校も授業内容も、とても高校とは思えず、大学の前期課程(以前の教養部)を思わせた。
当時のポップスや、メアリー(本当はメアリーの息子)の好きなアーティ・ショウのスウィング・ジャズも良かったが、アンガスが講堂の舞台のピアノで弾いたエリック・サティも耳に残る。