劇場公開日 2024年2月2日

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「シャンタル・アケルマンを思わせた。」ゴースト・トロピック 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0シャンタル・アケルマンを思わせた。

2024年4月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

冒頭、あの「ジャンヌ・ディエルマン」の続きを見ているかのような固定カメラの長回しで室内を捉えていた。
中年の女性清掃員ハディージャが遅い仕事を終えて乗り込んだブリュッセルのメトロで居眠りしてしまう。眠りに落ちると、一瞬音が消え、南の島の鳥の声が聞こえてきて、つかみは満点。どのようにghost(亡霊―まぼろし)と結びつくのかと思い見始める。しかし、ストーリーは良くなかった。私は、プロットには厳しいのかもしれない。
終点で目を覚ました彼女は、ショッピングセンターを開けてもらってATMに行くが、残額不十分で現金引き出しはできない。タクシーには乗れないので深夜バスに乗ろうとするけど、運行中止。第一、郊外から都心に向かう深夜バスなんてないよ。仕方なく歩き出す。特に急ぐわけでもないようだ。行き倒れの路上生活者を救急隊員に引き渡したり、以前に家政婦を務めていて今は空き家になっている邸宅を訪ねて、窓越しに不法侵入者を見つけたり、かと思えば、救急病院に押しかけたり、深夜まで開いているコンビニでミント・ティーにありついて、女性店員に家まで送ってもらう途中、スマホに出なかった17歳の娘が、男友達たちと路上で飲酒するところを見つけて尾行したり。とても、次の朝から仕事がある人には思えない。
人の目線より、やや高いところから、車が走るスピードで撮影が行われたことにも、やや戸惑う。
ハディージャは小柄で、髪を覆うスカーフをしていて、肌の色からも、マグレブ移民のムスリムと知れる。講習で習ったようなフランス語をゆっくり話す。外国人ばかりの街とはいえ、マイノリティーだからある程度、大事にされ、それに慣れているのか、結構図々しい。
一時、テロの巣窟と言われたモーレンベーグという地名も聞こえるから、監督のバス・ドゥボスは、バランスを取っているのかもしれない。こんな普通の移民もいるんだよと。最後に南の島が出てくる。
一番よかったのは、エンドクレジット。全編、フランス語だったのに、ここだけ英語。A film byと出て、一人一人のスタッフの名前が続く。極めて読みやすい。バス・ドゥボスは、オランダにも近いアントウェルペン州の出身だから、フラマン語(もう一つの公用語)にも、英語にも強いのだろう。

詠み人知らず