「寡黙な少女コット」コット、はじまりの夏 ゆみありさんの映画レビュー(感想・評価)
寡黙な少女コット
苛められていたわけではないし、虐待を受けていたわけでもない。だけど貧しい大家族の殺伐とした生活の中で、愛を感じることもなく自分の居場所を見つけることもできない無口な少女コット。そんなコットが9才の夏休みに子供のいない遠縁のキンセラ夫婦に預けられる。
アイリーン(奥さん)はコットに優しく接する。爪を切ったり、髪をといたり、着替えを手伝ったり、アイリーンの表情はどこまでも温かい。しかしそんな愛情のかけられ方を知らないコットの態度はどこかぎこちない。そんな無口なコットの姿に胸が締め付けられる。一方ショーン(夫)はぶっきらぼう。無関心にさえ見える。しかし、日常の生活(アイルランドの素朴な田園風景は美しい)を過ごすなかで少しずつ距離は詰められていく。農作業の手伝い、近所の人たちとの交流、街への買い物…、ときには声を荒げて叱ることもあったが、コットへの優しい感情が伝わっていく。そして夫婦の過去の悲劇が、たまたまコットと一緒に過ごすことになった中年女性によって明かされる。その事をアイリーンに尋ねるコット。過去を思い出し苦しむアイリーン、それをいたわるショーン。その姿をじっと見つめるコット。ぶっきらぼうなショーンはこの後、さらにコットに優しく接するようになる。夫婦とコット、お互いが必要としている、三人は家族なんだと僕は思った。
そして夏休みは終わる。この後、三人はどうなるのだろう。元の生活に戻るのだとしても、この美しい経験、記憶は決して消えない。この優しい記憶はコットの人生の大きな宝物になるにちがいない。
補足)アイルランドの映画と知っていて観たのだが、当然英語で話されると思っていたら、聞きなれない言語で驚いてしまった。アイルランド語(ゲール語?)なのだろうが、英語に似ていない気がした。素朴な田舎の風景とこの聞きなれない言語はとても調和していた。