「いなくなってしまう彼女の存在感が素敵。後半は…」輝け星くず かみさんの映画レビュー(感想・評価)
いなくなってしまう彼女の存在感が素敵。後半は…
恋人の女性がとつぜん薬物で逮捕。収監先に迎えに行くために、なぜか彼女の父親と珍道中を繰り広げる話。
彼女が薬に頼ってしまう理由、父親がパニック障害で乗り物に乗れない理由とは、親子が抱える過去のトラウマだった。もともと手品師だった一家が、脱出マジックの途上で起こった事故により母親を失ってしまったのだった。
まず前半、男性と父親のロードムービーがよかった。父親は電車にも車にも乗れず、ホテルにも泊まれずワガママを繰り返し、面倒くさいことを主人公に押し付ける癖にあれこれ注文が多い。
やっとたどり着いた先で彼女は男性に別れを告げる。またいつ薬物に走ってしまうか分からないし、あなたはもっとふさわしい人を見つけたほうがいい、と。
ここで彼女がいなくなる喪失感をしばらく味わっていたい、と思うほど恋人の存在感は輝いていた。天真爛漫でありながら陰を抱えていて、最後まで笑顔を見せながら突然いなくなってしまいそうな感じ。「ヤニ(煙草)」を吸いにいくといいつつ彼氏に隠れて薬物に手を出す行動がリアル。幸せであるほど、その幸せが不安にさせてしまうのだろうか。
しかし後半、親子が絆を取り戻すストーリーは間延びしてしまっている気がした。父親の手品を手伝うため男性はなし崩し的に女性の周りに戻ってくるので、さきほどの喪失感があまり生きてこない。二人の再会や対話はもう少し溜めてから見たいように思った。
ストーリーのキーワードである「ブレーキ」について。彼女はブレーキをなくしてしまったが、父親はブレーキがかかりっぱなしになってしまったという。彼女には、「一つの場所にとどまる」イコール「母親が事故を避けられなくなる」という連想が働いてしまったのだろうか。ラッコのように手をつないで眠ることを彼女に持ち掛ける男性の台詞は素敵。ただ、手品によってこの問題に決着がついたのどうかよくわからなかった。
最後、冒頭と同じように目隠しして自転車を二人乗りするシーンはとても好きだった。何かもうすべて受け入れたい気もする。主演の山崎さん、製作の金延さんの舞台挨拶つきで鑑賞。