「染田の不在に太田監督の実存的覚悟を見た」エス すしおさんの映画レビュー(感想・評価)
染田の不在に太田監督の実存的覚悟を見た
解説のとおり、映画監督「染田」が逮捕された後の仲間たちが、「染田」につにいて繰り広げる言葉のやりとりが中心の会話劇です。
「染田」本人のセリフはありませんが、会話の大半は「染田」についてなので、登場人物は①不在として存在する「染田」と②仲間たち、ということになりましょう。
上映後しばらくは、演劇っぽいというか人工的な会話のやりとりに若干違和感を感じましたが、役者さんたちの熱演もあり、結局110分間飽きることなく会話に引き込まれました。
先述のように、「染田」がその不在によって逆に際立つ構造になっているため、途中までは、太田監督が「染田」に投影して自分語りをしたいのかと誤解しました。
しかし、太田監督が会話のやりとりを通して描きたかったのは、自分のことではなくて、仲間たちのこと、社会のこと、彼らの中に張り巡らされている人間関係の網の目のようなものなのだと途中で理解しました。
「染田」の不在は、太田監督が自分語りをしたいからではなく、単に太田監督視点の描写になっているからであって、それは事件を引き受け、自分の視点で語ると決意したことの帰結なのではないでしょうか。
作品の中で「見える人にしか見えないチケット」の話が出てきます。これは示唆的なメタファーと感じました。個別具体的な個人の体験を下敷きにした本作品が多くの方の共感を得られるか、諸氏のご判断によると思いますが、見て損はないと思います。
学校の後輩なので、観るつもりでしたが、そう意味でなくて、必見の映画であることが予告編や、レビューで分かりました。なんとか時間をやりくりして観に行きたいと思います。時間が早くて厳しいですが、上映してくれるだけでもありがたいと思うべきでしょうね。