「失われた二人の人生と記憶が紡いだものとは」瞳をとじて ブログ「地政学への知性」さんの映画レビュー(感想・評価)
失われた二人の人生と記憶が紡いだものとは
失踪した人気俳優を巡るミステリー!ではない
完成間近だった映画撮影中に突然失踪したフリン。それがきっかけで監督を辞めて作家や翻訳家としてその後の22年間を生きてきたミゲルに舞い込んだ未解決事件を扱うテレビ番組の収録。ミゲルの中で止まっていた時間が動き出す。それでも事件にかくされた陰謀を明かすかのような素振りを見せるのはほんのしばらくで、誰も死んでいないし、誰も殴られない。
3時間の長編映画
長い映画だ。そして見た直後にははっきりしない結末にストレスが残る。でもなぜか後からわかってくる。映画が展開するテンポはゆっくりだ。それがために目に焼き付けられた登場人物が見せた様々な表情が甦り、この映画の伝えたかったものをじわりじわりと伝えてくれた。
掘り返される過去がミゲルに与えるもの
腑に落ちない過去に思い掛け無い形で向き合うことになったミゲルは、フリンの消息を掴もうと過去の人間関係に再び向き合う。そうして出会う人々もまたそれぞれがフリンに対する想いがある。それは語られる言葉だけでなく行動や表情という形で表現される。浮世離れしたような生活をしていたミゲルも、ミゲルに接する人々も淡々としているようでどこか優しい。それぞれが22年もの長い時間のなかでフリンのいない人生を築いてきた。いろんな関わり方でフリンと関係した人々に再会するミゲルは淡々としているようで何か心地良さを感じているかにも見える。
心の中の人生の記録とは
誰もが人生の記録を心に刻む。それを思い出と言ったり記憶と表現したりする。思い出は美化されると言う人もいるが、そのなかには決して美化されない誰もが忘れたい、閉じ込めたいものを持つ。それでもその記憶の中でも関わった人たちがいて今もどこかで生きていている。何も思い出を雄弁に語る必要なんかない。寄り添い合って生きていくだけで価値がある、そんなメッセージが届いた気がした。
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