「失踪への一時的な憧れ」瞳をとじて 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
失踪への一時的な憧れ
2023年。ビクトル・エリセ監督。20年前の映画撮影中に主演俳優が失踪した。監督は撮影を中止し、その後はいくつか小説を書いて話題にもなったものの、現在は海辺の村で静かに暮らしている。そんななか、失踪者を扱うテレビ番組に出演したところ、放送後に失踪した俳優が記憶を喪失した状態で見つかった、と連絡があり、、、という話。
主人公にとって、俳優は兵役を共にした親友でもあり、テレビ番組を機会にその関係者に会うことは、自らの過去を振り返り、老いと直面することでもあるが、その過程で、若いうちに姿を消した俳優について、この世の外へと羽ばたいたように感じられている。老いを前にしてこの世界から抜けだした俳優への憧れのようなものを否定できないのだ。それでも、生きる喜びを感じないらしい現在の俳優の姿はやはり求めるべきものではなく、この世界で、記憶とともに、生きるための「奇跡」(カール・ドライヤー)へと挑戦していく。一時的ではあるものの失踪への憧れ、それでもこの世界を捨ててはいけないという倫理。この展開が切ない。それが映画と記憶に関わる倫理なのだ。
映画を監督する、映画を保存する、映画に出演する、映画を鑑賞する、さまざまな人々の映画への関わり方が丁寧に描かれている。
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