蒼き狼 地果て海尽きるまで : インタビュー
角川春樹プロデューサー インタビュー
――「自分自身がチンギス・ハーンなんだ」と言うからには、やはりこの映画の劇中の状況と角川さん本人では、状況は重なるわけですね。
「もちろん。親父から“お前は俺の子供ではないのではないか?”とハッキリ言われているし、それは皮肉で言われたわけではなく、冷静に言われているしね(笑)。“私の母が浮気をして産んだ子供じゃないか”と疑われていたわけだからね」
――角川さんはチンギス・ハーンでもあり、松山ケンイチ扮する息子のジュチでもあるということですね。
「そう。で、自分で自分自身をどうやって証明するかというと、当時出版人だったから、父を越えるような出版人として実績を示すということになるよね。あの当時は、毎日が私と親父との戦いだったよ。でも、その戦いに勝っても勝っても、親父は私を認めない。何で親父が私を認めなかったかというと、私が反抗的だからなんだな。弟や姉と違って私はブリッ子じゃないから、父との距離がうまく取れないんだよ。もちろん私は私で、文学博士、そして俳人という教養人・角川源義に対する反発もあったしね。この映画の中で、反町(隆史)と松山がテムジンとジュチという親子を演じるんだけれども、テムジンの息子ジュチに対する距離の置き方、冷ややかさは、父親と私の関係を不思議なくらいによく表しているんだよ。“親父が生きていたら、どうなっていたんだろう?”と最近考えることがあるんだが、恐らく私は親父を追放したか、自分で他の事業をやっていただろうね」
――春樹さん自身は、父親の源義さんを越えるために映画を始めたところはあるのでしょうか?
「それはない。親父がもし生きていたら、映画なんか許さなかっただろうしね。私たち2人は体質は違いすぎたんだと思う。しかし、違い過ぎていながらも精神構造は似たところにあったのではないかとも思う。それだけに心の中では認めていたのかもしれない。だけれども、それは言葉に出来ない男親としての照れもあっただろうしね。結局、父が私を認めたのは、彼が死んだ年で、その年の正月、彼が“あいつは、ああだこうだ”と人の批判ばかりしていたので、私はムカムカして“人間、欠点のないやつなんていないんだ。人間は欠点も含めて総合的に見ていかないといけないんじゃないか? あなたの言い方だと、この世から人間は誰もいなくなるぜ”と言ったんだよ。すると“そうだ。お前が魅力的なのは、お前の欠点だ。お前は欠点の固まりじゃないか”というんだよ(笑)。このように愛と憎しみが入り交じるからこそ、人間ドラマが描けるんであって、順風満帆の人生では、大したドラマは描けないよ」
――800年前のモンゴルに置き換えて自身の物語を映画化するのではなく、お姉さんの辺見じゅんさんの小説「花冷え」と春樹さんの自伝「わが闘争」を合わせて、直接自分自身と家族を描く「ゴッドファーザー」のような大作映画を作ってくれたら、面白いと思うのですが。
「反町が自叙伝『わが闘争』をやりたいと言っているんだけど、俺はまだ現役なんだからダメだよ(笑)。だって反町が俺を演じてみなよ。反町の顔と俺の顔を比較して、周りがなんて言うか(笑)。もし、やるなら思いっきり不細工な奴にやらせてやるけど、嫌だね。大体、俺自身が現実『ゴッドファーザー』みたいなものだから、やらなくていいよ(笑)」
――では、「俺が死んだ後に勝手に作れ」って感じですか?
「いやいや、俺は死なない気がするんだよ(笑)。ホントだよ。だって俺の今の身体って10代の最盛期よりも元気なんだよ。毎日、木剣の素振りをやってるんだけど、木剣っていうのは6キロくらいあって、木刀の倍以上重たいんだ。それを一日7000回振ってるんだけど、なんてことないわけだよ。それを早く10000回やりたいんだけど、4~5時間を素振り用に作らないといけないんだよねえ(笑)」
――やはり、このあとはハリウッドを目指すのですか?
「いや、あんなものには騙されたくないね。1度向こうに行ってるから、奴らのやり方が汚いということは知ってるんだけどさ。役者がハリウッドに行くというのはいいだろうけど、俺はまっぴら。アジアをとるよ。今後ハリウッドは勝手にくたばっていくし、アジアをとれば、放っておいても、自分の映画は世界へ出て行くと思うからね」