「行動する意識高い系が成長すると、息子が同質の危うさを持っていることに気づけない」僕らの世界が交わるまで Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
行動する意識高い系が成長すると、息子が同質の危うさを持っていることに気づけない
2024.1.23 字幕 京都シネマ
2022年のアメリカ映画(88分、G)
衝突しあう母と息子を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本はジェシー・アイゼンバーグ
原題は『When You Finish Saving the World』で、直訳すると「あなたが世界を救い終えたら」という意味
物語の舞台はアメリカ・インディアナ州のとある町
配信をメインに楽曲発表を行なっている高校生のジギー(フィン・ウルフハート)は、慈善事業をしている母エヴリン(ジュリアン・ムーア)と事あるごとに衝突を繰り返していた
父ロジャー(ジェイ・O・サンダース)はマイペースな人柄で、似たものの母子を眺めていたが、どちらにも肩入れするつもりはなかった
ある日、ジギーは片思い中のライラ(アリーシャ・ボー)と話す機会ができて、彼女の学生活動を支持する意見を出す
「どうして?」と訳を聞かれても明確に答えられないジギーだったが、何とか取り繕って、ライラたちが参加する集会に行くことになった
ライラはそこで詩を朗読し、ジギーは歌を披露することになったが、彼の歌はその場にいる人の心を掴むことはなかった
彼は配信サイトで2万人のフォロワーがいることを誇りに思っていたが、その集会は場違いなもので、もっと社会的なメッセージが必要だと思い始める
そこで、母親に相談をするものの、「知恵をつけなさい」と頭ごなしにバカにされてしまうのである
物語は、ライラの詩に感銘を受けたジギーがそれに曲をつけるのだが、その行為が彼女の思惑に沿っていなくて距離を置かれてしまう様子を描いていく
ジギーの拗らせ承認欲求が最悪な形で噴出し、現実とネットの世界を混同していくのだが、エヴリン自身も理想と現実のギャップが広く空回りしていた
それぞれが自分の行いの正しさを感じているのだが、どちらもが自分がよく見られたいと思っていることが看過されている感じになっていて、痛々しさの方が優っている内容になっていた
映画は、淡々とした二人の日常を描いていくので、物語の起伏がほとんどなく、意識高い系の拗らせを眺めるという感じになっている
そんな中で、息子の代わりとしてカイル(ビリー・ブルック)に傾倒していくエヴリンが描かれていて、越権行為スレスレの危うさというものがあった
カイルの母アンジー(エレノア・ヘンドリックス)はそれに気づいてはいないようだったが、カイルに対しても彼の夢や目標を軽く見ていて距離を置かれているのは滑稽にも思えてくる
総じて、世界を救う前に自分の足元をしっかりと見た方が良いのでは?と思わせてくれるので、反面教師的な映画だったのかな、と感じた
いずれにせよ、所狭しといった感じに「行動する意識高い系」を描いているので、それを俯瞰しても心が痛くならない人向けの作品であるように思う
若気の至りのような感じになっていても、拗らせたまま成長するとエヴリンのようになっていくというのが見えてくるのも辛い
相手の気持ちを汲み取れない善意が受け入れられないというのは当然のことだろう
それを理解できない母と息子ならば衝突してもやむなしという感じで、お互いの正しさというバリアの中で孤軍奮闘しているのも見苦しくもある
反面教師的な作品だが、おそらく誰もが他人事のように思えていると思うので、鏡を見るようなイメージで本作に立ち向かうのが正解なのかも知れません