「移民の国アメリカ」ニューヨーク・オールド・アパートメント sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
移民の国アメリカ
遠く離れたアメリカの話だからと他人事には出来ない内容だった。
今の日本にも移民の問題は確実にあるのだ。
理由は分からないが母ラファエラ、息子のポールとティトの親子は、祖国ペルーを捨ててニューヨークに移り住んだ。
後に彼らは不法入国者であることが分かるが、生活はあまりに厳しくラファエラはウェイトレスをしながら、二人の息子は語学学校で勉強しながらも配達の仕事で家計を支えている。
まるで誰からも見向きもされない透明人間のような存在の彼ら。
特に若いポールとティトはニューヨークで自分の居場所を見つけ、何者かになりたいと望んでいた。
そんな彼らは語学学校で同じく移民のクリスティンと出会い恋に落ちる。
彼女には服役中の恋人がおり、彼女は彼を釈放するためにコールガールをしながら金を稼いでいた。
そんな闇を抱えた彼女に恋をしてしまった二人。
どこまでも純情な彼らはやがてその恋によって追い詰められることになる。
同じくラファエラもエドワルドという作家に恋をしたことで人生の歯車が狂わされていく。
エドワルドは彼女をウェイトレスの仕事から解き放つためにデリバリーのブリトーの店を作る。
日々の生活に疲れていた彼女は簡単にエドワルドの言葉に乗ってしまうが、やがて彼は口先だけで人を支配しようとする小者であることが分かってしまう。
彼女がすがりついた希望は、家族を切り離す絶望への入口だったのかもしれない。
この物語の悲劇は、あまりにも無知である彼らの自業自得であると突き放す見方も出来る。
しかしそう断言できるのは恵まれた環境にいるからなのだとも感じた。
彼らは幸せを掴むために藁にも縋る思いだったのだ。
この映画に登場する移民がひどい仕打ちを受けるシーンはそれほど多くはない。
語学学校の講師のようにあからさまに彼らを嘲笑する人もいるが、ほとんどの人間が彼らに無関心だ。
そしてほとんどの人間が彼らに好意を持たない。
しかし中には彼らを利用しようとする者も現れる。
何か面倒を起こしても、彼らは大事にすることが出来ないと知っているからだ。
こういう悪意のある連中が一番厄介だ。
彼女は信じていた恋人までもが自分を裏切っていたことを知ってしまう。
そして彼女の闇はどんどん拡がり、ポールとティトをも飲み込むことになる。
終盤まで何も救いのない話だと暗澹たる気持ちにさせられたが、おそらくポールもティトも根っからの明るい気質なのだろう。
どれだけ過酷な運命に立たされても彼らは前を向いて生きている。
それはラファエラも同じだ。
映画の中で問題はひとつも解決しないが、それでも自分を信じて生きている限り、いつかは光が差し込むのだと希望を持たせてくれるような作品だった。