劇場公開日 2024年6月7日 PROMOTION

あんのこと : 特集

2024年6月3日更新

脳の奥に“ダメージ”が貫通する慟哭の映画体験 虐待、
売春、ドラッグ。壮絶な生活から少女は光に向かい歩き
出す…「ふてほど」「サマーフィルム」河合優実の覚悟
の熱演 絶望の後に希望の光が包む重要かつ衝撃の実話

画像1

あなたは、映画を見ると、どんな感情になるだろうか。アクション映画でハラハラしたり、ラブストーリーで胸キュンしたり、ホラーでゾクッとしたり。多様な感情が生まれ、さまざまな記憶を呼び起こす――それが、映画の美しいところだ。

6月7日に公開される「あんのこと」は、映画.com編集部員である筆者にとって、忘れられない映画体験となった。脳の奥にとてつもない“ダメージ”が貫通する感覚……心が「忘れるな」と声を涸らして叫んでいるようで、いつまでも、その衝撃に揺さぶられていた。

画像2

本作は、入江悠監督と、カンヌ受賞作「PLAN 75」のスタッフがタッグを組み、実在の少女をモデルにした物語。虐待を受け、売春を繰り返し、ドラッグに溺れる……そんな壮絶な生活を強いられていた少女が、光に向かい歩き出す強い意志を描いている。

ドラマ「不適切にもほどがある!」や映画「サマーフィルムにのって」の若手実力派・河合優実が、覚悟の熱演で作り上げた、杏という少女。彼女の生き様を追いかけると、頭を抱えたくなるほどの圧倒的な絶望に晒されながらも、その奥に確かな希望が息づいていることを感じる。

この記事では、「絶望と希望が心を穿つ、唯一無二の鑑賞体験」となった本作の魅力をお届け。本作を観て、絶対に“あなた”にも知ってほしい、「あんのこと」を――。


【予告編】だれにも、私を殺させない。

まずは予告編を見て、杏が置かれた壮絶な境遇を“目撃”してから、記事を読み進めていただければと思う。


【衝撃①:脳と心に深い傷跡を残す強烈な実話映画】
だが希望も色濃く残る…「月」「新聞記者」級の渾身作

画像3

実際に鑑賞した筆者が、劇中であなたを待ち受ける“衝撃”を大きく3つに分けてご紹介。初っ端の衝撃①は、この強烈な物語が実話に基づいているということ……かつてない境地に達した鑑賞体験を振り返っていく。

●【観るとどうなるか?】感情がぐちゃぐちゃになり、どうしようもなく叫びたくなった… いつまでも抜け出せない、深い余韻が尾を引いた鑑賞後感
画像4

あらすじやキャストの詳細などの重要情報をすっ飛ばして、とにかく、何よりも、「観てどう感じたのか」を、伝わるかどうかわからないが率直に伝えさせてほしい。

筆者は鑑賞しながら、杏とともに、些細なことで切り替わる絶望と希望の間を転げ回り、彼女の選択に涙が溢れ、そして何よりも彼女を身近に感じて、いてもたってもいられなくなった。さまざまな感情が同時多発的に生まれ、ぐちゃぐちゃになった。圧倒的な絶望と確かな希望――そんな両極端の要素に引き裂かれ、どうしようもなく叫びたくなる。

そして迎えた結末に、言葉を失う。いつまでも抜け出せない、深い余韻が尾を引いた。

●【さらなる驚きは…実話であること】全ての始まりは、1本の新聞記事 入江悠監督×「PLAN 75」スタッフが描く、“あなた”のそばで起きていた本当の話
画像5

本作が実話ベースであることにも驚かされる。企画の始まりは、ある事件についての1本の新聞記事だった。「SR サイタマノラッパー」「ギャングース」など、社会の底辺で苦闘する人々を描いてきた入江悠監督は、その記事を見て、「自分が絶対に描かなければ」という使命感に駆られた。

入江監督は、モデルとなった少女に取材していた担当記者から話を聞き、脚本を執筆。「彼女の尊厳を守りながらも、生きようとする切実な意思に寄り添う」という覚悟を胸に、「自分に描く資格があるのか」と何度も葛藤しながら、河合も出演した話題作「PLAN 75」のスタッフとともに、自身初となる実話物に挑んだ。

画像21

実話をもとにした映画といえば、世間の話題をさらった衝撃作「月」「新聞記者」などのタイトルを思い浮かべる方もいるだろう。本作は、そうした作品群にもひけをとらない、製作陣が信念を貫いた渾身の作品だと、自信をもっておすすめできる。


【衝撃②:過酷な物語】虐待、売春、ドラッグ…女性の
地獄と再生、俳優陣の覚悟の熱演を映画館で観てほしい

画像6

前述した通り、いつまでも心から消えない、この鑑賞後感を支えているのは、杏の地獄と再生を描いた過酷な物語と、覚悟を決めた俳優陣の熱演だ。

●【信じがたい境遇】幼少期から繰り返された虐待。12歳、母親の紹介で強いられた売春。そして16歳で始めたドラッグに溺れ…
画像7

冒頭からノンストップで畳みかけられるのは、杏が置かれた信じがたい境遇だ。虐待、売春、ドラッグ……わずか20歳の彼女の日常と化している地獄が、容赦なく描かれ、毎秒呼吸が止まりそうになる。以下に、杏の日常の一部を綴っていく。

・中学校には行っていない。ろくに教育を受けていないので、漢字をほとんど読めない。・お金がなかったので、万引きして生活をしていた。・売春を始めたのは12歳、母親の紹介だった。・クスリは16歳のときに、ガラの悪い男から勧められた。・母親は杏を「ママ」と呼び、暴行しながら「体売って金作ってこい」と命令する…。
画像8

これは、あくまでも一部であり、劇中では観る者が心にダメージを負う描写が、まだまだある。しかし本作は、壮絶な境遇を描くだけには留まらない。映画で描かれる“スタート地点”からは想像がつかないかもしれないが、杏は人々の手助けを受け、更生の道を辿っていくのだ。「ここから抜け出したい」「新しい自分になりたい」という彼女の覚悟は、そんな背景を吹き飛ばすほど、さらに、さらに、凄まじかった。

入江監督は、「確かに彼女の人生は過酷といえます」「と同時に、彼女にも楽しく豊かな時間はあったにちがいない。そう考えたとき、彼女の人生と並走し、その体温を身近に感じてみたくなったんです」と語っている。

画像9

その言葉通り、入江監督は、目を奪われがちな杏の人生の苛烈さだけではなく、彼女の見ていた美しい世界や生き生きとした時間を、ドキュメンタリーのような質感で描出。ひとりの少女の実像と真摯に向き合う眼差し、リアリティ溢れる描写が、「自分のすぐそばで起きていてもおかしくない話」として、観客を物語に、どこまでも深く没入させる。

彼女はいかにして、この過酷な生活から抜け出すのか。その軌跡を、あなた自身の目で、しっかりと見届けてほしい。

●【凄まじい俳優陣】河合優実×佐藤二朗×稲垣吾郎、そして編集部推しの河井青葉 見る者を慟哭させる、頭にこびりつく圧巻の芝居
画像10

そして何といっても、本作を“傑作”たらしめているのは、河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎の凄まじい演技と存在感だ。筆者が個人的に強く推したい河井青葉の“狂演”も見逃せない。どんなキャラで、どんな演技なのか? 是非映画館で、たっぷりと浴びることをおすすめする。

画像11
●「不適切にもほどがある!」で話題の河合優実/主人公・杏役
地獄からの再生。現状から抜け出したいと願うが…

機能不全の家庭に生まれ、虐待の末に売春を強いられ、ドラッグに溺れる少女。そんな現状から抜け出したいと願うが、さらなる厳しい現実が行く手を阻む。絶望と希望の間を行き来し、別人のように変わっていく杏の表情や眼差し。モデルとなった女性について、「彼女の人生を、自分が生き直す」という覚悟で息吹を吹き込んだ河合優実の熱演に、完全に心をもっていかれる。

画像12
●「変な家」佐藤二朗/刑事・多々羅役
杏を闇から引きずり出し、救いの手を差し伸べるが、その裏で…

杏に救いの手を差し伸べ、自らが主宰する薬物更生者の自助グループへと誘うベテラン刑事。杏にとっては拠り所のような存在となるが、その信頼関係が揺らぐ、ある秘密を抱えている。人懐っこく親しみやすいが、どこか得体の知れない闇を抱えた男。コミカルな印象が強い佐藤二朗が、人間の持つ複雑さ、底知れなさ、矛盾を凝縮したような人物を、絶妙なバランスで演じ上げた。

画像13
●「正欲」稲垣吾郎/取材する記者・桐野役
杏と多々羅をあたたかく見守るが、ある思惑を抱え…

多々羅が主宰し、杏が身を寄せる自助グループを取材する記者。ふたりをあたたかく見守り、3人は友情のような絆で結ばれていくが、実は多々羅の秘密を暴くという思惑を胸に秘めている。稲垣吾郎がその佇まいで、観客が感情移入できる観察者としての役割を担い、友情と自らの正義の狭間での“揺れ”や、それゆえの居心地の悪さをにじませる。

画像14
●「愛しのアイリーン」河井青葉/杏の母・春海役
虐待し、売春を強いるが、杏に依存しきっており…

幼少期から杏を日常的に虐待し、売春を強いる母親。自らの“客”を家に連れ込むこともしばしば。一方で、杏を「ママ」と呼ぶなど、親子は異様な依存関係にある。河井青葉が、杏をとことん追いつめ、疲弊させていく春海役を、憑依状態のような激しさで体現。観客が同情する余地を全く与えず、どこまでも憎しみを増幅させる“猛毒演技”に息をのむだろう。


【衝撃③:あなたは誰が悪いと思いますか?】倫理観を
揺さぶるテーマ。極限の問いに、考え、答えてほしい…

画像15

映画が終わっても、その世界から抜け出せない――映画好きな方なら、こうした鑑賞後感には、覚えがあるのではないだろうか。没入感抜群の世界観、圧倒的な映像や音--映画から抜け出せなくなる理由は、さまざまだ。

本作の場合は、杏を通して観客に突きつける、答えの出ない痛烈な問いかけが、いつまでも筆者の頭を支配していた。最後に、本作が内包する倫理観を揺さぶるテーマについて、ここに綴っていく。

●どうする? 何ができる? 自問自答と気付きを得る稀有な114分
画像16

上述のキャラクター紹介でも分かる通り、どの登場人物も二面性を抱えている。それが杏を取り巻く環境をより複雑にし、彼女の光へ向かう道を困難にし、同時に鑑賞体験自体にも複雑な妙味を付与している。

画像17

杏のたどる運命は、一体誰がもたらしたのか? どうにかすることはできなかったのか? 自分が杏のそばにいたとして、彼女に何ができるだろうか……。とてつもなくリアルな杏の存在感に、当事者意識が膨らみ、無力感がこみ上げてくる。いくつもの自問自答を繰り返すなかで、自分の倫理観が崩れていく音が、耳元でごうごうと鳴った。

そして不意に思い当たる――自分は、杏に手を差し伸べられなかったどころか、そんな少女がいたことを「知らなかった」。多々羅、桐野、春海だけではない。彼女をあんなに過酷で凄まじい境遇に追いつめたのは、ほかでもない社会の無関心ではないか、と――。

●観る前と観た後の自分は、全くの別人だ――価値観をがらりと変えられる映画体験
画像18

鑑賞から時間がたったいまだからこそ、分かる。本作を観る前と観た後、「あんのこと」を知る前と知った後の自分は、全くの別人だと感じるほど衝撃を受け、価値観をがらりと変えられた。

鑑賞直後は呼吸が乱れるほど苦しくなった、けれど日常に戻っても、彼女のことを考えずにはいられない――そんな稀有な鑑賞体験となったのだ。あなたにも、この究極の114分を潜り抜けて、極限の問いを前に、ひたすら考え続けてほしい。

●「あんのこと」を知らなかった“あなた”へ 今こそ映画館で彼女を“知るべき時”が来た
画像19

この記事をここまで読んでくれたあなたへ、最後にこれだけは伝えたい。「あんのこと」を知らなかったあなたにこそ、是非映画館で、彼女の物語を知ってほしい。無関心の領域から抜け出すだけで、自分の、そしてまだ見ぬ誰かの世界が変わるのだから――。

画像20

インタビュー

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

映画評論

「あんのこと」の作品トップへ