あんのことのレビュー・感想・評価
全315件中、141~160件目を表示
つい「遠いところ」と
とても厳しい映画だが観て良かった
実話をベースに敷いたハードなドラマで、一体どこまで事実に即しているのだろう…と観終わった後に気になって少し調べてみた。人物設定や物語にアレンジはあるが、基本的には杏が辿った人生はほぼ事実に即しているということである。
きっとこの映画を観なければ、現代の日本でこのような事件があったという事を知らずにいただろう。それを知ることが出来たという意味でも今作を観て良かったと思う。と同時に、杏のように過酷な状況に置かれた少年少女が他にもたくさんいるのではないか…などと考えさせられてしまった。
物語は大きく前半と後半で切り分けることが出来ると思う。
前半は杏が刑事の多々羅、新聞記者の桐野と交流しながら更生していく…というドラマで、凄惨な過去から抜け出して徐々に人並みの暮らしを送れるようになっていく姿が清々しく観れた。
しかし、物語は中盤で多々羅の”ある秘密”が判明することで徐々に暗雲が立ち込めていくようになる。後半は一転、杏一人を中心としたドラマになり、彼女が再び破滅の道を転落していくようになる。
観終わった後には、実話ベースの重みもあり何とも言えない気持ちにさせられた。
劇中では新型コロナウィルスが社会に与えた影響も大きく取り上げられている。誰もが経験したであろう、このパンデミックはそれまでの日常生活を一変させてしまった。杏が勤める介護施設や夜間学校も閉鎖され、彼女の夢や希望は失われてしまう。こうした社会背景を如実に反映させた所に本作のリアリズムがあるように思う。自分は決して他人事のように観れなかった。
また、桐野が書いた記事が杏の運命を狂わせてしまうが、ここにはメディアの功罪という問題が隠されているような気がする。彼は正義のために取材したことは間違いない。しかし、その影で杏のように嘆き悲しむ人もいるということを忘れてはならない。
更に、杏の境遇には毒親の問題、後半のドラマのキーとなる隣人のシングルマザーにはネグレクトの問題が確認できる。
このように様々な社会問題を提示して見せた所も、今作の注目すべきポイントのように思う。
監督、脚本は入江悠。「SR サイタマノラッパー」で注目され、今ではメジャー作品も手掛ける作家だが、基本的には今作のようなインディシーンに軸足を置いている人だと思う。
…と言いながら、自分は「SR サイタマノラッパー」の1作目と3作目しか観たことがないので大層なことは言えないのだが、それでも手持ちカメラによるドキュメンタリックなスタイルはメジャー映画とは一線を画したシビアさを観る者に突きつけてくる。クローズアップの多さも特筆すべきで、画面にヒリつくような熱度と臨場感をもたらし、終始目が離せなかった。
アバンタイトルのシーンを含め、時制を交錯させたトリッキーな構成も特徴的と言える。ただ、隣のシングルマザーが児童相談所を訪れるシーンの挿入は唐突に思えてならなかった。結果的にこれはラストシーンに繋がるわけだが、ドラマへの集中力を欠く不要なカットバックだったように思う。
終盤、日記の紙切れが舞う演出も少しメロウすぎて自分には受け付け難い。リアリズムを重視した本作では浮いて見えてしまった。
キャスト陣では、何と言っても杏を演じた河合優実の熱演。これに尽きると思う。序盤はほとんどセリフらしいセリフがなく荒んだ表情だけで見事に強烈なキャラクター象を創り上げている。後半からは憑き物が落ちたような清廉さを見せ、これも印象的だった。
一方、多々羅を演じた佐藤二朗は独特のユーモアで妙演していると思うが、やや臭い芝居が鼻についた。リアリズム重視の本作には余り向いてないという気がしてしまった。
あんの汚え厚底と身勝手な母親のキレイな厚底がね。。 不運で可愛そう...
多々羅さんって案外いるような・・・
自分の得にもならないのに熱心に親身になって、ボランティアのような活動をする人。
とても素晴らしいと思うし、そのようになりたいとも思うが、自分はなれないとも思う。
火のない所に煙は立たない。並外れたモチベーションの裏には必ず理由があって、やる気の源泉が何なのかが重要なんだと思う。
理由がよくわからないけど、とにかく熱心で真面目で良い人。
自分はこういう人を疑ってしまう。よくわからないから。自分の性格が悪いのは確かだけど。
河合優実さんは上手いですね。ドラマ「不適切にも程がある」で、本人がまだ生まれていなかった80年台のヤンキーみたいなギャルを、いかにもいそうな感じで演じているのを見て、すごいと思った。
今作でもラスト付近のトラウマから発狂するシーンで、ゾクッとくるリアルさでした。
久々に打ちのめされた…。
静かな、静かな、映画だった。
まるで、洞窟の天井からしずくが一滴一滴落ちてきて、小さな盃からこぼれ落ちる寸前、表面張力がいつまでも保つか、そんな感じ。
気が付けば、あんという少女を祈るような気持ちで見守っていた。
彼女は、小学校もきちんと通っていない。
父親は不在で、母親から必要な愛情も養育も受けられないばかりか、搾取の対象にされている。
観察している限り、彼女より母親の方がよほど重症だ。
そして、彼女は、困ったときどうしたらいいか、それが根本的に分からない。
教えてもらっていないし、学ぶ機会も与えられていないから当然かもしれないが。
もう少しで、彼女の努力が実るかもしれないというところで、母親の言うことを信じて、気を許してしまう。
まるで、白雪姫のようだ。
けれど、王子様は現れず、白雪姫は眠り続けるエンディングに、暗澹たる気持ちになった。
…映画を観て、吐き気を覚えたのは、初めてかもしれない。
この後、「関心領域」を観るつもりだったけど、「あまろっく」に変更した。
明るい気持ちで帰途につけたので、正しい判断だった。
悲痛な余韻から抜け出せない
さようなら「あんのこと」。
一ヶ月前に一度観賞しましたが悲惨過ぎて、もう一度観賞するのを躊躇していましたが客観的に心に留めたいと考え再度観賞しました。
安易に泣く事も出来ない程に辛い映画ではありますが、お茶の間で有名な俳優さん達の熱演でエンターテイメントの枠内にギリギリ踏み留まり観客にメッセージを受け止めた上で考える余地も与える優れた作品になったと思います。
2020年に自殺してしまった実在の女性の人生を土台に、入江監督を始め製作陣がオリジナルの要素を多々追加し、それらを踏まえた河合優美さんが繊細で優しい演技で「あん」に命を与えたのだと感じました。全ての暴力に曝される弱者の総体として生まれた「あん」が、余りに悲惨な状況を抜け出して幸せという光に向かって歩き始めた途端に、全ての大人達によって自殺に追い込まれます。(新型コロナ流行や援助者である刑事一人の脱落で簡単に孤立に追いやる社会も私達が作った物だと思う。)虐待の主体である母親も何らかの虐待の被害者であったのかもしれない事が父親のあからさま不在によって匂わされていると感じた。現実でも頻繁にあるであろう虐待の連鎖の悲惨さに言葉も出ない。娘を「ママ!」と呼ぶ母親の恐ろしさは(映画オリジナル要素との事)、現実に起こる多く虐待の一つの根っ子の様で寒気がしました。
物語後半の幼児を押し付けられる下りは映画オリジナルのエピソードだそうですが虐待の連鎖を絶ちきり幼児を愛し保護する「あん」は余りに優しく、だからこそ余りに悲しく感じました。
親子が光りのある方に向かって廊下を歩いて行くラストシーン。
初見では無責任な母親の能天気な後ろ姿に見えたのですが。2回目の観賞の今回は「あんの物語」を引き継ぎ負の連鎖を断ち切った希望のラストシーンだったのではないだろうかと考えるようになりました。
私自身がリアルで児童虐待防止運動に微力ながら協力させていただく事になり落ちがついたので、この作品を観させていただくのはこれが最後かな?
彼女は、きっと、あなたのそばにいた
あんだって?(志村)
あんのこととはいえ、東出君との離婚後の話や河瀬直美の過去作について(無理矢理)の作品ではなく、観てるのがひたすらしんどいWカワイ映画。公開初週末での鑑賞、人気の河合優実主演ということもあってけっこうな客入りだったが、役柄的にも温度低めな優実に対して、凄まじい沸騰ぶりの青葉は自分だったら逆にぶっ殺してるだろう毒親加減で、とにかく酷いことが起きるんじゃないかと身構え続けてしまった。結果、本当に最悪なことになってしまうし、佐藤二朗のベタベタ具合もイヤーな予感がした通り(個人的には広川隆一のDAYS JAPAN問題を想起)。サルベージ赤羽がなくなってもいいのか?って、おまいう…。
これらのどこまでがBased on true storyなのだろう? 落日のわが国にも民間活動ながらセーフティネットが一応機能していることが救いといえば救いだけど、コロナ禍で例のブルーインパルス飛行を見ながら絶望した人間がいたであろうことは記憶に留めておきたい。
現代の「不条理」
パンデミックは世界中に「不条理」を産み落とした。やりきれない事件を元に良いシナリオが、出来たと思います。
で、私が普段からその「芸風」を好まない、佐藤二朗。観客のミスリードを誘うための配役なのかはわからんが、散見される有名俳優のキャスティングに不満。時期的にたまたま、河合優美が旬の配役にはなったが、そこまで印象のない役者だったので、なかなかの衝撃。
で、何かを乗り越えてこない役なのに有名人を使われると、せっかくの「リアル」が損なわれてしまう。
入江監督のしがらみなのか、そうでないと木下もお金が出せないのか。
稲垣吾郎の芝居なんて「情」は端から持っていないしなぁ‥とか。ハイハイ、早見あかりの「はすっぱ女」ね。などと、印象を抱かせる必要はあるのだろうか。
渾身の作品も、河合の怪演も、そんなとこで「どっちらけ」。映画を楽しみたければ、普段こっちがテレビを観なければいいのかな。日本映画にそんな文句言ったらいけないの?そのうち河合優美にも「ハイハイ」とか言っちゃうのかな。頼むからCMとか出ないでね。
あれ?いい映画の感想書こうと思ったけど、文句のほうが多いなオレ‥。
本当にあった出来事に衝撃を受ける
実際に起きた事件をもとにした物語を観たり読んだときにいつも思うのは、これのどこまでがリアルでどこからがフィクションなのかということ。本作は丁寧に冒頭で実際にあった出来事を題材にしている旨の字幕が示された。その後、主人公あんの姿が描かれるのだが、本当に壮絶だった。母親から売春を強要され、シャプ漬けになる。薬から抜け出して自立しようともがくが、母親の邪魔が入る。あぁ、なんという毒親。
小学校も卒業していないから文字の読み書きも難しいってところにもなかなかの衝撃を受けた。そうなると本当にいろんなことの選択肢が狭くなるんだな。やはり日本でおきたってことが受け入れがたい。「サイタマノラッパー」のようなドキュメンタリーっぽいカメラワークも、あんの置かれた過酷な状況をよりリアルにしていた気がする。どこまでがリアルな出来事なんだろう。
でも、そんな彼女の環境を伝えることだけが目的ではない。何が善で何が悪なのかを考えさせられた。人は100%の悪人はいないし、逆もまたそう。いつも優しい人間がたまに悪いことをするときもある。当たり前のことだけど、それでいろんな歯車が狂うこともあるってこと。救われない人生もある。ただ、あんのとった行動に最後救われた気持ちにもなる。ここらへんの作りがうまかった。コロナ禍の日本を舞台としてうまく活用していたのも印象に残る。あんが絶望したときに空に見えたもの。あの光景を対極の状況を描くものとして使うなんて。かなり衝撃だった。
それにしても河合優実という俳優はどこまで大きくなっていくのだろうか。楽しみでしかない。
幸せになってくれよ
ドキュメンタリーと錯覚するような、時代を映す悲しい名作
どのような映画を「良い映画」と評価するのかというのは、難しい。
爽快な気分になる映画、泣ける映画、考えさせられる映画、生活に影響を与えるような映画…。
『あんのこと』は、楽しい映画ではない。
時には目を背けたくなるような、観たくない現実を見せられるような映画である。それでも、観なくてはいけない、観るべき映画なのだろうと思う。
河合優実という女優によって、思春期の少女の怖さや儚さ、強さや弱さ、それらがコロコロと揺れ動く様が、リアルに伝わってくる。
ふと、ドキュメンタリーかと錯覚すらする。
この物語自体、実話が元になっており、プロデューサーである國實氏が「彼女の人生を残さないと」と感じて企画がスタートしたとのこと。それを受けた入江監督が「杏の人生を生き返す」というスタンスで、できる限り順撮りで撮影しだそうです。
そのような姿勢が、私たちに、ドキュメンタリーかと錯覚させるようなリアリティを感じさせるのだろうと思います。
本当に、モデルとなった女性の、短い人生の中での辛さや苦しみ、嬉しさや希望、そんなものを丁寧に描いている作品になっていると思います。
そして、それを成し遂げた、入江監督と河合優実の功績が大きい。
また、コロナで何が起こったのか、それを後世に残すという意味においても、この映画は貴重な作品になっていると思います。
「彼女はきっと、あなたのそばにいた」
このフレーズが、心に刺さります。
映画館を出て、すれ違う人、一人ひとりが「ひょっとすると、この子が“杏”かもしれない」と思い、立ち尽くす。
社会のセーフティネットとは
いつまでも見ていたい杏ちゃん
全315件中、141~160件目を表示