劇場公開日 2024年6月7日

「三面記事にしかならなかったある女性のこと」あんのこと kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0三面記事にしかならなかったある女性のこと

2024年6月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

2020年のコロナ禍で起きた実際の事件を「SRサイタマノラッパー」「AI崩壊」などの入江悠監督が映画化した。
三面記事にしか取り上げられなかった事件だが、知人をコロナで亡くした監督はこれは映画にしないといけないと使命に駆られたという。
21歳の杏(河合優実)は幼少期から母に虐待され、小学生で不登校、12歳から母に売春を強いられ、得たお金は母に搾取されるという過酷な生活を送っている。覚醒剤も常用しており2018年秋に逮捕されてしまう。
そこで出会った刑事の多々羅(佐藤次郎)に彼が主宰する薬物更生施設を紹介され、通うようになる。
そこに出入りする週刊誌記者の桐野(稲垣吾郎)も良き理解者として就職先として介護施設を紹介してもらう。小学校以来通っていない学校にも通うようになり人生に光が差し始めた時にコロナ禍が襲う。
せっかく出来た社会との繋がりを寸断されてしまう。
杏をどん底の生活から救い出せるのは社会と繋がる細い糸だった。引っ張ればすぐに切れてしまう細い糸。その糸が切れてしまった。
改めて思うが、その糸を切ったのは政治なのではないか。
あの当時、安倍首相は国のトップとしての行動力を示すために学校、会社などの休止を要請した。
そこに、細い糸でしか繋がっていない弱者の事は考えられていなかった。
あんのことは氷山の一角にしか過ぎないと思う。
もちろん社会を止めなかったらコロナはどうなっていたのか。もっとたくさんの人が亡くなったかもしれない。
ただ、一律に休止するのではなくきめ細かい配慮は出来たはずだと思う。
そうすれば、こうした弱者の被害は少しでも減らせたのではないかと、残念でならない。
また、未知の感染症が襲う可能性はある。その時に弱者を救うセーフティネットが構築されていることを切に願う。
河合優実の演技は杏が憑依しているようなリアリティがありもはや演技の域を超え、まるでドキュメンタリーフィルムを見ているような錯覚を憶えた。

kozuka
kozukaさんのコメント
2024年7月5日

ガリレオ様
ご指摘ありがとうございます。
確かに少女という表現は間違いでしたので訂正させていただきました。
ハナさんの記事は朝日新聞の記事をダウンロードして読みました。
「三面記事に代表されるベタ記事」ではなく丁寧な取材による記事であることは理解しています。
三面記事とは一般的に新聞の社会面を指すこと。映画のオフィシャルサイトでも三面記事という表現が存在していること。
三面記事=一面で扱われる記事ではなく、気がつかなければ見過ごされてしまう記事、という意味で使わさせていただきました。

kozuka
ガリレオさんのコメント
2024年7月4日

 突然、失礼いたします。

 一連の新聞報道をリアルタイムで読んでいた者です。
 三面記事にしか〜、の表記について、私見を申し上げます。

 杏のモデルは仮名でハナさんと紹介されており、死亡記事は後日譚として、追悼文のように書かれていました。仮名ですから、プライバシーに配慮した形になりますが、写真も複数掲載されており、一般的に三面記事から連想される、ベタ記事とは趣きの違うものです。

 1年弱、取材を担当された記者さんの、心痛が伝わる、署名入りの記事でした。

 また、ハナさんは25歳で亡くなっており、少女ではありません。

 各種メディアから引用された上での、表現だと推察しておりますが、ハナさんの訃報に際し、涙した者として、決して小さな扱いではなかったと、お知らせした次第です。

ガリレオ