「重いけど惹き込まれる」あんのこと たんぼさんの映画レビュー(感想・評価)
重いけど惹き込まれる
鑑賞後、深い余韻が残る作品でした。
前半の希望の糸を手繰り寄せながら前を向いて生きようと上り坂を登り始める展開と、後半の下り坂を転げ落ちるような絶望に次ぐ絶望のコントラストが印象的な構成でした。
主人公のあんが今そこにいそうな息遣いで演じられていて、劇場内は満員で没頭できないかもと言う不安をよそにあっという間に作品の中に引き込まれました。あんの母親も怪演で性根から毒親という感じがして非常に説得力がありました。
少し残念だったのは、あんを取り囲む何人かの人物たちや演出の描写が雑というかアンビバレントだったこと。
稲垣吾郎は佇まいがSMAP稲垣吾郎すぎて、もう少し見た目やカラオケの歌をさらに下手に歌うようにするなどベテラン週刊誌記者に寄せたら入り込めたのにと思いました。
また、子供を勝手に預けたシングルマザーが最後はさらっと改心したのは脚本上話をまとめに行きたかったのでご都合的に入れられた気がしてしまい、そこに至る背景が説明不足な感じがしてしまいました。
さらに、あんが必死に子育てをする描写は良かったのですが、部屋に真新しそうなおもちゃがたくさん置いてあるのがあんの経済力からして違和感でした(あのおもちゃ達が1つ数千円以上するのになと思って見てしまいました)。
あんのクマの濃い風貌や安物のデイパック、心の機微の見せ方などあん自身には非常に丁寧に演出が施されていたように感じたので上記が余計ににちょっと残念に感じましたが、あんにフォーカスするそぎ落とした結果なのかもしれません。
終始カメラワークは少し1歩引いて、あんの日常を覗き見てるような感じで撮影されており、過剰な演出もなく、とても良かったです。それ故に、ブルーインパルスが舞う空や最後の手帳のメモがはらりと落ちていく演出的なシーンが引き立っていたように感じます。
コロナ禍のニュース映像やブルーインパルスの飛ぶ空は自身の記憶も呼び起こしてくれるものであり、たった数年前の出来事でも随分忘れて生きてしまっていることを再認識させてくれました。
そういった意味で、観客とあんのライフストーリーの接点をうまく作っていた作品だと言うふうに感じました。
総じて見て良かったと思える作品であり、普段無意識に対岸の岸の出来事と捉えてしまっている社会問題をグッと近くに引き寄せてくれるような力強い映画でした