「貧困の現実を描くにしても、ここまで不幸と不運のオンパレードにする必要はあったのだろうか?」あんのこと tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
貧困の現実を描くにしても、ここまで不幸と不運のオンパレードにする必要はあったのだろうか?
子供を金づるとしか思わない毒親のせいで、小学校を中退し、売春を強要され、薬物中毒者となった主人公の悲惨な姿を見ると、しっかりと立ち直って健全な人生を送ってもらいたいと、心から思ってしまう。
やがて、彼女を取り調べた人情派の刑事のおかげで、薬物更生者の自助グループに加わり、介護施設に働き口を見つけ、DVやストーカー被害者用のシェルターに住み、夜間学校に通い始めて、彼女が「まとも」な生活を送れるようになると、本当にホッとした気分になる。何よりも、それまで死人のようだった主人公の顔に、みるみる生気が満ちてくる様子を見るだけで、胸が熱くなった。
しかし、女性の体が目当てだったという刑事の裏の顔が明らかになって自助グループが閉鎖され、コロナ禍のせいで仕事を失い、学校も閉鎖されると、主人公の幸せな日々は、一気に暗転することになる。
隣人から突然預かった赤ん坊を、主人公が四苦八苦しながら育てる様子に、微かな希望を感じ取ることもできるのだが、偶然出会った母親に、人質同然に赤ん坊を奪われたことにより、主人公は、再び売春と薬物に手を染め、やがて取り返しのつかない選択をすることになる。
ここで、いくら実話がベースでも、貧困の現実を描くのに、何もそこまで不幸と不運の連鎖を作り出さなくてもいいのではないかと思ってしまうし、あまりに救いのない結末に、何ともいたたまれない気持ちになってしまった。
確かに、薬物中毒から抜け出すことは難しいのだろうが、悪徳警官とか、コロナ禍とかの特殊な事情を持ち出すのではなく、むしろ、一般的な状況で、それを描いた方が良かったのではないかとも思う。
劇中、真実を報道したことに葛藤するジャーナリストが出てくるが、そもそも、自助グループを運営するよう人は、善意からそうしているはずであって、それを、下心があることが当たり前の「必要悪」のように描いているところにも違和感がある。
ラストで、コロナで死んだとばかり思っていた赤ん坊が、元気で生きていたと分かったことが、この作品の唯一の救いと言えるだろうか・・・
いたたまれなかったですね🥲
あんがのこしたハヤトに関する一枚の紙に、彼女の誠実さと責任感があらわれていた気がしました。
私は実際の事件を知らなかったけれど、こうして1人でも多くの鑑賞者が彼女のことを知って考えてみることがわずかながらでも供養になるのかもと思います。