「【”喪失感とそれでも生きる意味。そしてアンナ・カレーニナ。”かえるくん、みみず、ねじまき鳥も出て来る不思議でシュールなテイスト満載作。斬新な絵柄や比喩に富んだファンタジーな世界感もナカナカな作品】」めくらやなぎと眠る女 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”喪失感とそれでも生きる意味。そしてアンナ・カレーニナ。”かえるくん、みみず、ねじまき鳥も出て来る不思議でシュールなテイスト満載作。斬新な絵柄や比喩に富んだファンタジーな世界感もナカナカな作品】
■ご存じの通り、村上春樹氏の小説には”羊男”を筆頭に、奇妙なキャラクターが屡々登場する。
初期の作品から通底しているのは、倦怠感漂う独特の文章であり、(初期作品では、良く”やれやれ”というフレーズが使われていた。)どこかスノッブな感じでありながら、全体的には希望を漂わせる文章が、〇学生だった私には、魅力的であった。
フライヤーを読むと、今作は氏の小説の掌編幾つかを入れ込んだ作品だそうである。
尚、私は”ハルキスト”ではない事は、ここに敢えて記す。(大体、”ハルキスト”って何て名前だよ!全くもう!)
◆感想
・今作は、全く知らなかった仏蘭西のアニメーション作家だというピエール・フォルデス氏が監督・脚本を務めているが、絵柄はバンド・デシネではない。
人生に疲れた感じのサラリーマンの小村や片瀬の表情から想起したのは、つげ義春氏の漫画である。
・そこに、かえるくんが登場し、東京を大地震から救うために片瀬に協力を仰いだり、氏の諸作品で描かれている”喪失感とそれでも生きる意味”のようなテーマも絡めて物語は進んで行くのである。
私は、吹き替え版で鑑賞したが、かえるくんの声を担当した古館寛治さんのとぼけたような声が絶妙にマッチしている。
・小村も精彩の無い表情で描かれている。
彼の元から出て行った妻キョウコの手紙には”貴方との生活は、空気と一緒に暮らしているみたいでした。”などと、「UFOが釧路に降りる」でも使われた台詞が綴られていたようだしね。
・”アンナ・カレーニナ”が時折語られているのも、当然キョウコのことを暗喩しているのであろうし、スノッブ感が漂っている所も、ナカナカである。
<だが、今作がナカナカ面白いのは、そんな人生に疲れた感じのサラリーマンの小村や片瀬が、徐々に生きる意味を見出していく姿がキチンと描かれている所ではないかな。
特に、会社で上司からパワハラのような扱いを受けていた冴えない中年サラリーマン片瀬(本当にこんなに冴えないサラリーマンがいるのか!と言う位、冴えない。)がかえるくんのお陰で昇進して、パワハラ上司が退職勧告者リストに入っていたり、小村も新しい人生を歩き出そうとするようだしね。
不思議なテイストのアニメーション映画であるが、斬新な絵柄や村上春樹氏の掌編を巧く盛り込んだりしている所も、ナカナカな作品でしたよ。>