「少年の観察と気づきと成長を通じて、変わりゆくもの、変わらないものを描く」オールド・フォックス 11歳の選択 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
少年の観察と気づきと成長を通じて、変わりゆくもの、変わらないものを描く
台北郊外の仄かな灯りの下、市井の人々のささやかな息遣いを丁寧に汲み取った上質なドラマである。1989年の不動産価格の高騰が人々の暮らしや価値観に影響を与える様子を描きつつ、そんな日々の中で出会う11歳の少年と、狐のような抜け目のなさで人々から恐れられる地主、オールド・フォクスとの交流を紡ぐ。側から見ると、まるで祖父と孫。しかし実質的には人生の師弟、もしくはフォックスの存在はさながらメフィストフェレスとさえ言えるのかも。作品の構造として面白いのは、物語を1989年に限定した「一点」で描くのではなく、フォックスが育った時代、少年の優しい父親が経た時代、それから少年自身の時代という、価値観や意識が異なる3つの生き様を交錯させているところ。世代間の差異が自ずと台湾の現代史、精神史を浮かび上がらせる。やや地味に思える側面もあるものの、忘れがたい味わいが沁み出し、我々を深く穏やかに包み込む秀作である。
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